あなたにそれを与えました。
(主人公視点)
"噂だから当てにならない"、"噂なんて信じない"、そう思ってる貴方は馬鹿だろう。はっきり言わせてもらう、馬鹿だ。
人の噂も75日とか言うけれど、悪い噂が75日も続けば自殺願望者なんて馬鹿みたいに出てくるだろう。しかも日を増すごとに噂は膨れ上がるものなんだから。
なんでこんな話をしているのかと言うと、噂されてるから。昨日の出来事があって。
噂は当事者が肯定すれば、それは噂から真実に階級が上がるが、この噂は肯定したくない、否事実ではない。
「律。」
ぞくり、とした。
「無視するんか?」
ああ黙れ。全ての元凶はお前だ。逃げ出したくて軽く後ずさった足に静止をかける。ここで逃げたら更に面倒だ。
ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる銀髪を軽く睨む。
昼休みの人の多い廊下、私を見てこそこそと話していた女子達に加えて、男子達までもが騒ぎ出す。
噂の、とか、本当だったのか、とか聞こえてくる。
いつものだるそうな雰囲気は何処に行ったのか、優しく微笑みながら私の前で仁王は止まる。
仁王の様子に顔を赤くしながら女の子2人が前に出る。
「仁王君、噂って本当なの?」
「能見さんと付き合ってるって噂…。」
女の子達が話しかけると、心底面倒そうに話を聞く仁王。女の子達が全てを言い切ると、にたりと笑う。
「事実なり。」
一言でざわざわと騒ぎ出す周りの生徒達。
それを見ながら、この場で否定するのと黙っておくのはどちらが面倒事にならないか考えていると、仁王に腕を掴まれてそのまま何処かへ連れて行かれた。
仁王が止まったのは裏庭だった。仁王は私の腕を放し、昨日私が座ったところに座って持っていたビニール袋を漁り始めた。
私が立ったままだと気付いたのか、顔を上げて隣をぽんぽんと叩いた。座れってことか。
『なんで。』
「ん?」
『付き合ってない。』
ビニール袋から菓子パンと取り出し、食べ始めている仁王の横に素直に座る。
昨日と同じように胡坐をかき、弁当を広げる。
「ま、なんとかなるじゃろ。」
『ならない。』
最悪だ、と思ってため息をつく。そのため息に反応したように仁王がこちらの様子をうかがっているのが分かるが、面倒なので無視を決め込む。
弁当を食べ終わり、片づけを済ませて立ち上がると仁王はまだパンを食べていた。
私が立ったことに気付き、はっと上を見上げる仁王。その姿が犬みたいで可愛くて、頬が緩む。
『あげる。』
それだけ言って、ポケットに入っていた飴を仁王の脇に4つ置いた。
軽く銀髪の頭を撫でて裏庭を後にした。
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