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全国の壁
 

湧いた会場。
その中心にはバスケコート。


『春ー!』


うちの叫び声は届かない。
それくらい周りの声は大きい。そして思いも。


会場の外から聞こえるセミの鳴き声が耳障り。
熱気に包まれている会場は暑い。


今は第4ピリオドの後半。
集中力が切れてきたのか、動きが鈍くなってくる選手達。

それでも諦めない選手達。
やばい惚れそう、なんて不謹慎にも思ってみる。


そのまま試合終了。氷帝学園バスケ部は全国で一回戦敗退。


試合終了後の挨拶を終え、氷帝バスケ部が応援していた観客の向かって一列に並ぶ。
その中に春を見つける。

ありがとうございました、と叫んで深く頭を下げる。
その姿に惜しみない拍手が送られた。


まだ午前中で大会はまだ続くらしく、春達バスケ部は残るらしい。
居ても仕方ないと思って、会場を後にした。



家に帰って夏休みの宿題をしていると、電話がかかってきた。
時計を見ると午後6時。飯食ってねーよ、と思いながら電話に出る。


電話の相手は春だった。要件は話を聞いてほしい、とのこと。
了承すると、うちの家の前にある公園で待ち合わせになった。



親に声をかけて玄関を出て、一直線に公園へ行った。
だるー。何でいきなり呼び出されてんの、うち?


公園でブランコを漕いでいると春が来た。


「ぶっ!」

『え?会って早々噴き出すってどうなの?』

「だって!ブランコとか餓鬼かよ!しかも似合ってるし!」

『うっさい。』


いつも通りの春に安心する。電話での春は心なしか元気がなかった。


春がブランコの前にある低い鉄の柵に座る。
下を向いて顔を上げないから表情が分からない。


「負けた。」

『知ってるよ、居たから。』


ゆっくりと顔を上げた春の顔は、泣きそうな顔を無理に笑わせてるようだった。


「勝ちたかった、負けたくなかった、上に行きたかった、あいつらと。」


小さく相槌を打ちながら話を聞く。


「俺さ、負けたときに笑ってた。ここまでこれるなんて凄いって…。」

『うん。』

「でもさ、後輩泣いてて、みんな悲しそうで。なんでもっと…!もっと頑張れたかもしれないのに…。」

『頑張ってた。凄いよ、そこまで行けたんだから。』


漫画とかドラマみたいには言えない。
豊富なボキャブラリーもない。


『今回の結果が嫌なら、もっと強くなれ。高校だってある。まだうちら中学生だよ?』

「だな。」

『そのまま高等部行くんなら時間もいっぱいあるんだし。』

「おう。」


春は小さく頷いて、思いつめた顔をして笑った。


まあ元気が出たなら帰っていいだろ。てか眠い。
ブランコから降りて家に帰ろうとすると、大勢の男子が公園に入ってきた。


「なな…ぜ…ぜんばーい!」

「ちょ、何でいんの?」


1人の男子が泣きながら春に抱きつく。多分後輩。
抱きつかれた春は驚いてる。


帰っていいのか?でも入り口に男子の集団いるし…。
帰るタイミングを完璧に逃したなー。


「あのー。」

『何ですか?』

「俺、バスケ部の部長の鍋岡って言います。いつも七瀬がお世話になってます。」

『あー、いえいえ?』


この男子の集団はバスケ部らしい。


「なんでここにいんだよ!」

『春、落ち着けー。』

「無理!てか、なんで遊はそんなに落ち着いてんだよ。」


混乱して暴れだしそうな春を、抱きついてる後輩らしき男子が止めている。


「みんなで打ち上げする店に向かってる途中で、来ないって行ってた七瀬見つけたんだよ!」

「んで、予約の時間よりも早かったから七瀬を追いかけてみようってなってー、」

「追いかけたら公園に入っていって、話を盗み聞きしちゃいましたー!」


あらあら、奥さん聞きました?最近の中学生は怖いわねー。プライバシーの欠片もないわー。


「七瀬、俺らも上に行きたかったよ。」

「お前が俺らよりも頑張ってたの知ってるから!」

「勝ちたかったけど、無理だったんだよ。俺らの力がなかったから。」

「でも!俺らには後輩がいる!」

「ちょ、プレッシャーかけないでくださいよ!」


春囲んで、みんなが声をかけていく。
楽しそうな雰囲気と笑い声。


あれ?うちってここに居る必要ないよね?
そう思って、なるべく気配を消して家に帰った。


全国の壁
→高くて、高くて、その高さだけ彼らを大人に変えた。

 

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