008
(S side)
「セルティ!」
『なんだ?』
新羅のハイテンションぶりにひきながらもPDAに言葉を打ち込む。
「実は…、」
目をキラキラとさせて話し出す新羅を見ていると、なぜか懐かしく思った。
そうだ、あの子がこんな目をしていた。
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あれは10年ほど前の8月だった。
「おねえさん、だーれ?」
仕事中、路地裏で女の子に話しかけられた。
正直困惑した。女の子は小学生…いや、まだ小学生ではないような歳の子だった。
そんな歳の子が路地、しかも夜中の11時にいることが可笑しかった。
こ、これは…よくホラー映画であるような…!
と思うと、考えは止まらず、彼女は目の前の女の子が実は血塗れだったらどうしよう、と思い目をこらした。目はないけど。
が、目の前の少女は至って普通だった。
「おねえさんのおなまえは?」
名前を教えれば何かされるのでは、と考えこむ私をよそに女の子は言った。
「おねえさんのおなまえは?」
結局教えても教えなくても呪われる、という考えに辿り着き、それならば教えると結論を出し、名乗った。
もちろん、PDAで。
『セルティ・ストゥルルソンだ』
「わかった、せっちゃんだね!」
それだけ言うと女の子は去って行った。
だが、女の子のあまりの無邪気さに自分の心は恐怖の渦に飲まれているのが分かった。
そしてその次の日、私はまたその女の子と出会うことになった。
その日も仕事をしていた。
いつものように影で大きな鎌を作り出した。
仕事を終え、新羅にメールを打ち終わったとき、重大なことに気付いた。
ここは…あの女の子と会った路地だ。
彼女の中で不安と恐怖が入り混じる。だが冷静に周りに集中する。
ふと後ろから視線を感じて振り向くとあの女の子がいた。
ここで、にやりと笑われたらどうしよう。
そんなことを思いながらセルティは女の子の方を見つめる。
そして女の子が口を開くのを見て身体を硬くした。だが、聞こえた言葉は予想したものではなかった。
「せっちゃんってかげだったんだ!」
は?、と呆気にとられ、動きが止まったセルティの周りを女の子がちょこちょこと歩く。
「そうか、そうか…かげだったのか!」
笑顔で嬉しそうに言う女の子に心を許した。
と、いうかよく考えれば普通に足もあったし、そんな気配はなかったから幽霊ってことはない、と後々分かった。
それから、その子――さなえという名前だと言っていたのだが、その子と仲良くなった。
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さなえはとてもいい子だった。
話していれば楽しいし、首がないということを教えても怖がらなかったし、泣かなかった。
自分の中で新羅とは少し違う特別な人物だった。
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