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夏の日の約束
 

なるべくテニス部のファンに気付かれないように部室に入る。

何でこんなことになってるんだっけ?あー、面倒。
にしても暇。本でも読んどくか。


「疲れましたね。」

「今日は一段と厳しかったっスよねー。」


本を読んでいると、部室のドアが開いてテニス部の人達が入ってきた。

これって声をかけたほうがいいのか?


「あ、お疲れ様でーす。」


そう声をかけると、入ってきた人達の表情が固まる。

あれ?なんか悪いこと言った?


「誰っスか?」

「なんでここに入っている!」


私…ここに居ろって言われたよね?もしかして聞き間違い?勘違い?え?


「はあ…ちょ、そいつは…はあ、はあ。」

「丸井先輩もう終わったんスか?」

「通常の3倍はあった気が致しますが…。」


はあはあ、と肩で息をしながら苦しそうにしている丸井が部室に入ってきた。
落ち着くまで待つと事情を話し出す。


「そいつは俺がいれたんだよぃ。」

「山田蒼乃。丸井と噂になっていた女子だな。」

「ええ!マジだったんスか、あの噂!」


2年の切原にまで伝わるくらい大きな噂になってたのか。
今更ながら実感する。


「いや、嘘なんだけどよー…、」

「女子にリンチ受けとるところを助けたんじゃ。そのままにしとくと他の女子にまた絡まれそうだったけえ連れて来たんじゃ。」

「丸井と噂になったのが原因の確率が高いな。」


事情を説明してくれる仁王に、冷静に確実なことを返してくる柳。
いつの間に部室に入ってきてたんだ仁王…。


「あー、着替えるんなら出ますよ?」


そんな中明らかに空気を読んでいない私の発言に、部室内の空気がぴしりと固まる。

そんなもの気にせず、荷物を持ってドアに向かっていく。


「すぐ着替えるから外で待ってろよぃ!」

「えー、あー…はい。」


丸井に声をかけられて、部室のドアに手をかけたまま振り返って応える。


その言葉通り、外で待つこと3分で丸井は出てきた。
急いだのかネクタイは変だし、ボタンも掛け違えている。


「ボタン掛け違えてる。あとネクタイも変。」


指摘すると、わたわた直し始める丸井。ボタンを直して、ネクタイを解いている。
はっきり言って、遅い。


「かして。」


ネクタイをほとんど強制的に丸井の手から奪うと、ネクタイを結びはじめる。
ちらりと丸井の後ろを見ると、部室のドアの隙間から仁王がにやにやしているのが見えた。

うわー、ムカつく。
小さく舌打ちしてネクタイをぎゅっと結ぶと、頭一つ分高い丸井からぐぇっと声が漏れた。


「あ、ごめん。」

「いや大丈夫。てかネクタイありがとな!」

「あー、いえいえ。」


満面の笑みでお礼を言う丸井に軽く微笑んで返す。
それと同時に丸井の後ろの部室のドアが開いた。


「やっぱ付き合ってるんでしょ!」

「あ、バカ!今顔出しちゃいけないだろーが!」


切原くんと桑原くんが出てくる。
え、何?盗み聞き?てか今ので付き合ってるようなとこあった?あ、ネクタイか。


「残念、本当に付き合ってないから。」

「そ、そそそそうだぜぃ!」

「どもりすぎ。」


軽く丸井に突っ込んで歩き出す。
出遅れた丸井が小走りで横まで来たので、そのまま並んで歩く。


薄暗い道を2人で歩く。会話はほとんどテニス部のこと。話している丸井の顔は輝いてる。


「俺達、三連覇するんだぜぃ!」

「へえ。」

「そーだ!試合見に来てくれよぃ!」

「え?」

「全国の決勝だけでもいーから!」

「はは、そこまで行くんだ。」

「おう!」


見に行くよ、いつもよりも明るい笑顔と約束した。
ふわりと7月の生温い風が頬を撫でた。


夏の日の約束
→負けない、と言ってた君。

 

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あきゅろす。
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