焦燥
7
ピッコロを吹くのって、未知。だから良い音色を手探り状態で吹いている。このピッコロはきっと魔法なんだ。呪縛解放士のロンナが持っているくらいなのだから。
「ああ、どうか!ロンナを解放してくださいまし」
間違えながらも、リズムになってもいない、メロディーでも。そんなの構わない。もう、ただ……この夢に私も居たくなったの。
「楽しい舞踏会を」
よみがえらせる勢いで吹いた、楽譜無きメロディー。もう……なんでもいい!
眠るかのような感覚に一瞬陥ったが、すぐに目が醒めた。すぐ、目をあければ、ロンナの手があった。
「大丈夫か……?」
「ロンナ!」
ここはさっきの誰もいない舞踏会……だけど、人は居た。良かった……。
「一時の幻想状態……か。間違いないようだ。大丈夫か?」
「えっ?幻想状態って?ロンナ、さっきおかしかったよ」
私を逃がさないと言わんばかりの、勢いがあったというのに。
腰を抱き寄せて踊る男女の光景すら目に入らないまま……混乱と疑問の二重奏を奏でていた。
「……は、なぜ。私はおかしくもない」
「えっ……あれ?」
「変わりもない。普通に私はシャンパンを飲んでいた。シャンパンを飲んでいるときに貴女は混乱したのだよ」
「豹変してたよ、ロンナ」
そんなの知らないと言わんばかりの表情で首を振る。何も知らないよと言っているのと変わらない。
「……いや。してない。先ほど言った通り、私がシャンパンを飲んでいる間、いきなり倒れた。ロボットのような表情で起き上がって、手を握ったら意識が回復したのだ」
「どういうこと……?」
「考えられるなら、幻惑だ。何者かの手によって施されたんじゃないか」
ロンナは何言ってるの?幻惑やら訳分からないこと言って。
「ピッコロ……吹いたんだよ?楽しい舞踏会って言ったのに。ねえ、ロンナ。何者ってふたりっきりでしかいないのに、おかしいよ!」
「そうか……。まあ落ち着け。舞踏会を始めないか。メインイベントをしよう」
意味が分からない。現実でも、ロンナはよく分からない。さっきの幻惑でも、よく分からない。
「なによ!もういやだ!帰りたい……」
何、この舞踏会……。
なんか、なんかが醒めた気がしてならない。
舞踏会場を抜け出して、出口を探そうとするが、見つからない。
元来た道に沿っていこうとしたのに……。あれ、出口こっちなはず……。
歩いた先は行き止まりで、どうしようもなかった。有名作家の絵画が壁にかかっている、廊下だった。
「悪いが、ここは私が導いた舞踏会なのだよ」
突っ走って逃げたのに、ここにいるはずのないロンナがいる。
「残念ながら、貴女は永世の夢を見ている。何重にも重なった夢を。ははは。可哀相にねぇ……」
悪の仮面をかぶった、ロンナ。
「なっ……」
「逃げるおつもりかい?」
そう言われた瞬間、ビリビリ頭がしびれ、記憶が飛んだような感覚になった。
そもそも、この子誰だ……どうやって来たんだ……あれ、まったくわからない。
「……さようなら」
「こんなに私が寂しくても……うう……お別れか。醒めちゃったのだね。ココロナ……」
最後に、後ろを振り向いた。
小さい姿が、ある。
この子、誰だったかしら。
「ココロナって、だれだ……」
「醒めちゃった、醒めちゃった。今度は誰と遊ぶのかな。さっきの子、誰だったっけなあ。んーしらない」
夢がちょっとずつ、薄れてゆく。
「アア、タノシカッタ」
甘い声が、少し鼓膜に響いた。
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