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焦燥

 ピッコロを吹くのって、未知。だから良い音色を手探り状態で吹いている。このピッコロはきっと魔法なんだ。呪縛解放士のロンナが持っているくらいなのだから。

「ああ、どうか!ロンナを解放してくださいまし」

間違えながらも、リズムになってもいない、メロディーでも。そんなの構わない。もう、ただ……この夢に私も居たくなったの。

「楽しい舞踏会を」

よみがえらせる勢いで吹いた、楽譜無きメロディー。もう……なんでもいい!

 眠るかのような感覚に一瞬陥ったが、すぐに目が醒めた。すぐ、目をあければ、ロンナの手があった。

「大丈夫か……?」

「ロンナ!」

 ここはさっきの誰もいない舞踏会……だけど、人は居た。良かった……。

「一時の幻想状態……か。間違いないようだ。大丈夫か?」

「えっ?幻想状態って?ロンナ、さっきおかしかったよ」

私を逃がさないと言わんばかりの、勢いがあったというのに。
腰を抱き寄せて踊る男女の光景すら目に入らないまま……混乱と疑問の二重奏を奏でていた。

「……は、なぜ。私はおかしくもない」

「えっ……あれ?」

「変わりもない。普通に私はシャンパンを飲んでいた。シャンパンを飲んでいるときに貴女は混乱したのだよ」

「豹変してたよ、ロンナ」

そんなの知らないと言わんばかりの表情で首を振る。何も知らないよと言っているのと変わらない。

「……いや。してない。先ほど言った通り、私がシャンパンを飲んでいる間、いきなり倒れた。ロボットのような表情で起き上がって、手を握ったら意識が回復したのだ」

「どういうこと……?」

「考えられるなら、幻惑だ。何者かの手によって施されたんじゃないか」

 ロンナは何言ってるの?幻惑やら訳分からないこと言って。

「ピッコロ……吹いたんだよ?楽しい舞踏会って言ったのに。ねえ、ロンナ。何者ってふたりっきりでしかいないのに、おかしいよ!」

「そうか……。まあ落ち着け。舞踏会を始めないか。メインイベントをしよう」

意味が分からない。現実でも、ロンナはよく分からない。さっきの幻惑でも、よく分からない。

「なによ!もういやだ!帰りたい……」

何、この舞踏会……。

なんか、なんかが醒めた気がしてならない。

舞踏会場を抜け出して、出口を探そうとするが、見つからない。

元来た道に沿っていこうとしたのに……。あれ、出口こっちなはず……。

歩いた先は行き止まりで、どうしようもなかった。有名作家の絵画が壁にかかっている、廊下だった。

「悪いが、ここは私が導いた舞踏会なのだよ」

突っ走って逃げたのに、ここにいるはずのないロンナがいる。

「残念ながら、貴女は永世の夢を見ている。何重にも重なった夢を。ははは。可哀相にねぇ……」

悪の仮面をかぶった、ロンナ。

「なっ……」

「逃げるおつもりかい?」

そう言われた瞬間、ビリビリ頭がしびれ、記憶が飛んだような感覚になった。

そもそも、この子誰だ……どうやって来たんだ……あれ、まったくわからない。

「……さようなら」

「こんなに私が寂しくても……うう……お別れか。醒めちゃったのだね。ココロナ……」

最後に、後ろを振り向いた。

小さい姿が、ある。

この子、誰だったかしら。

「ココロナって、だれだ……」

「醒めちゃった、醒めちゃった。今度は誰と遊ぶのかな。さっきの子、誰だったっけなあ。んーしらない」

夢がちょっとずつ、薄れてゆく。

「アア、タノシカッタ」

甘い声が、少し鼓膜に響いた。

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あきゅろす。
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