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我侭だと知っていても


時に人は、とても悲しくなるときがある。

それは突然やって来て、最奥の扉に閉じ込めてしまう。

悲しいことがあったわけでもこれからあるわけでもない。

それは突然、やって来るのだ。






「ねぇ、中禅寺さん」

「・・・・・」



やけに悲しい声だと思った。

だから返事に戸惑った。




「私が鬼になったら、私ごと殺してください」

「・・・どうしたんだい一体」

「何となくです」




そう言って名前は僕の肩に頭を預けた。
顔は見えないけど多分悲しい顔をしているのだろう。





「・・・・いいだろう」

「ありがとうございます」

「悲しいことだね」

「・・・・何でですか?」

「何となくだよ」





聞いたような言葉を聞かせてやる。

名前はきっと不満そうな顔をしている。
悲しそうな顔をもっと引き攣らせているに違いない。






「我侭だ」

「知っています」

「僕に殺人鬼になれと言うんだな」

「いえ、あなたまで鬼になっては元も子もないです」

「・・・・そうだな」

「ふふ・・・・っ」










(君は笑った。やはりその顔は見えない)




 

  

あきゅろす。
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