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飴玉ころり


「ふんふーん、ふふん」



鼻歌を歌いながら、眩暈坂を陽気に登る。
普通はこんなに軽い気持ちでは登れないのだが、今日は特別。


だってこの先には大好きな京極堂が待っている。


それも一週間ぶりに会うのだ。
いろいろ用事が重なって暇が無かった私の貴重な休暇。
それをあの人のために使わないでどうします。





「ふんふ・・・・ぜ、はぁ!はぁ・・・・キツかった・・・・」

「無理はするものじゃないよ、名前さん」

「せ、関口先生!?」

「やだなぁ・・・敦っちゃんの呼び方が移ったね」





坂の上で私を待っていたのは関口先生だった。
この人の言う通り、私のこの呼び方は敦っちゃんたる京極堂の妹からきたものだ。


どうやら関口先生も京極堂に行く途中だったらしくて、下から来た私を見守ってたらしい。
声をかけてくれればいいのに。と思う。




「実は今日、京極堂に呼ばれててね」

「よよ呼ばれてきたんですか!?」

「そうだよ。何やら頼みたい事があるらしくて」

「うっそでしょ・・・・・」





呼ばれたということは用事があるということだ。

それってつまり今日は暇じゃない、私の相手は無理ってことで。

風船から空気が抜けていくように生気が無くなった。




「やっぱり、無理をしたからじゃないか?」

「・・・・そうかもしれませんんんー」

「京極堂で少しばかり休んでいなよ」

「良いですよ、オイラ帰るべさ」

「どこの人だよ君は・・・ほら、僕を手伝うつもりで来てくれよ」

「はぁ・・・・・分かりましたよ。手伝うつもりでねー」




そのまま関口先生に引き摺られながら京極堂へお邪魔することになったのだが

私は暫く来ていなかったし生気も抜けたしで少し入りずらかったから
玄関で京極堂に挨拶するまで塀の後ろでチラチラ盗み見しようとしていた。



関口先生が玄関を開けるとそこには寒気を纏った京極堂が立っていた。




「遅いな、本当に君はのろい」

「酷いな京極堂。今日僕は君の頼みで来てやったんだ
感謝してもらいたいぐらいだよ」

「ことは一刻を争うのだよ。それで頼みたいことってのはね・・・・」

「待てよ京極堂、実は名前さんが来ているんだ」

「な・・・・何?」

「丁度そこの坂で会ってね、調子を崩したからここで休ませて貰いたいんだ」




そこでようやく、ひょっこりと顔を出してみる。




「お久しぶりです・・・。そんな死人を見たような目で見ないで下さいよ」

「君、本当に名前なのか?」

「そうだよ。僕の目に狂いがなければこの子は名前さんだ」

「・・・・・・関口君、あれだ。神社へ行って千鶴子に言伝してくれ。茶菓子が切れたと」

「もしかしてそのためだけに?」

「・・・・そうだ、もう戻ってこなくても良いぞ」





何も言えなくなって関口先生は怒って行ってしまった。
少しその背中を見詰めて、可哀想だなと思う。
だがすぐに京極堂に向き直ってその顔を見る。


ポケットをあさる。

確かあったはずだ。





「えぇと、京極堂・・・」

「・・・名前」

「あ、ほら。有った・・・・茶菓子とか立派な物じゃないけど」

「名前」

「・・・・飴で、す?」





ころり


可愛く包まれた飴が床に転がった。



何で転がったんだ?

何で落としたんだ?

何でこんなに




「名前」

「きょ、う極ど・・・?」

「今まで何処へ行っていた」




嗚呼、私は抱きしめられていたのだ。
愛しい人に。大好きな京極堂に。


悲しげで甘い声が、耳に届く。




「暇が、見つからなくて・・・・」

「良かった」

「え?」

「死んでしまったのかと、焦ってしまった」

「それはそれは・・・ふふ」

「笑わないでくれよ」





大好きなあなた。

大好きなあなたの大好きな飴玉。

大好きな飴玉は、私を引き寄せるときに落としてしまいました。







(それでもあなたは気にしない)










関口は名前を探すためのパシリだったようだ
人遣い荒いなぁ・・・



 

  

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