[携帯モード] [URL送信]
ホワイトDAY


えー私、名前です。

(分かってるって?いいの、言わないで。)



前回のバレンタインでは中禅寺に好き放題にやられ、チョコのひとつもやれませんでした。
なので今回のホワイトデーにてチョコをあげるつもりです。



そして中禅寺前




「たのもーーう!」



バシンと玄関を開けるとそこにはダルそうな中禅寺の顔が。



「ぎゃう!」

「・・・驚くなよ」

「だだだだってッ!」





ここまで緊張してきたのに、ガラガラこんにちは☆なんて心臓に悪いと思う。




「ど、どこかにお出かけですか?」

「こんなチラシが入っててね・・・」




宣伝紙を見ると見出しに“文庫本大売出し”の文字が。
成る程、この男にとって文庫本とは宝のような存在だからな。




「少し歩くが、名前も行くかい?」

「行きます!」

「えらい素直だね今日は・・・」

「いつもです」

「そんなわけな「いつもです」」





無理やり言葉を遮る。素直じゃないのが私なのは知ってるから。
だってここまで来たのに一人でお留守番とか嫌だし。








――15分くらい歩いた




ある書店の前で止まる。



「さて、僕は暫く中にいることになるけど?」

「んー・・・外で待ってます!」

「寒くないかい?」

「そこの犬と遊んでますから!」

「でも・・・」

「犬ー、わんこー、ぽちー!」

「・・・」






何とか納得(?)させて外にとどまる。
鞄の中にはチョコが入ってるし、まだ店内は暖房つけてるだろうから溶けてしまうかもしれない。

そんなことになっては困る。




「おて、おすわり、ふせ!全部無視かーい」

「名前じゃん!」

「あらー?」




中禅寺さんの声ではないが、誰だろうと思って振り返る。
するとそこには同じクラスの男子くんが居た。

よく一緒に話している人の一人だ。






「こんな所で何してんだ?」

「犬と戯れてた」

「無視されるのに?」

「寝てるんだよ、可愛いよ?」

「(どう見ても起きてるし戦闘態勢なんですけど)」




しゃがんでいた足を伸ばして立つと、少し上にある男子くんが笑った。




「ここで会ったのも何かの運だろ!」

「だとしたら最悪な運勢だろうね今日は」

「相変わらず素直じゃねぇなー!ほらコレ、やるよ」

「・・・何コレ?」




渡されたのは白い封筒。
開けてみろと言われたので丁寧に封を切った。

中には恋愛ものの映画チケットが二人分。




「映画のチケット?」

「・・・ちょうど二人分あるんだけどよ、今度・・・」




「名前」




「「・・・へ?」」



見事に男子くんとステレオしてしまった。
横を見ると中禅寺さんがいかにも不機嫌そうな顔をしていた。

手を見れば重そうな本をたんまり入れた紙袋。
この細い腕のどこにそんな力があるのか聞きたい。





「男子くん、映画のことだけど」

「お、おう!」

「快く受け取るよ!」

「「・・・・」」




沈黙(という名の衝撃)が走った。

中禅寺は目尻を痙攣させて、名前を睨んだ。
それでも名前はニコニコと笑顔で男子くんにお礼を言っている。



「・・・行くよ」

「わ、ちょっと待ってください!じゃあまた明日学校で!」

「あぁ!またな!」




あとから走って横に付いて来る。
意地悪して早足で歩いても、名前は焦って付いて来る。

いつもはこの懸命さが微笑ましいのだが、今は駄目だ。


名前はおかしい


自分が目の前にいるというのに、映画の誘いに乗っただと?
信じたくない。信じられない。




「中禅寺さん!」

「・・・」

「さっきクラスの男子に映画のチケットを貰ったんですけど!」




短い沈黙で返すも、名前は横について走るのがやっとみたいで
語尾の方は若干叫び気味である。




「二人分あるから、今度暇なときにでも!」

「行ってくるといい」



名前の息が上がってきたのが分かって流石にやりすぎたと思う。
止まってそう言ってやれば、安堵のような不満のような複雑な表情になる。



「人事みたいですね?」

「人事だろ」

「なんでですか!私たちが行くんですから!」




「・・・は?」





思わず声を出すと、名前は笑った。
何だ、自分の勘違いだったのかと安心した気分になる。

しかし男子くんはこの事実を受け止められるだろうか。
そんな不安が他でも無い中禅寺を襲った。



そんな思案も関係なく
名前は思い出したように鞄の中を漁り、透明の袋で包装されたチョコレートを出した。




「あとこれ・・・バレンタインに渡せなかったから!」

「もしかしてそれで外で待っていたのか?」

「まぁ、そんな感じで・・・受け取ってもらえますか?」



控えめに差し出すと、中禅寺は空いている方の手で頭を撫でた。



「それ、持ちたくないな」

「・・・すいません!」




そうか、これ以上荷物を増やすとは考えてなかった。
軽率な行動だっただろうか・・・


残念そうに鞄の中にしまうと、また歩き始めた。
今度はゆっくり歩く。


すると中禅寺に手を繋がれた。
驚いてその顔を見ると、相変わらずの仏頂面で。




「今貰うと、こうすることができないからね」










(片手に力を入れているとは思えないほど優しい握り方!)
(煩いな、君は!)




 

  

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!