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だから、戻ってきてくれ


「私は、小さい頃から負けず嫌いだった」





そんなことは知っている






「かけっこでもテストでもジャンケンでさえも、負けたくなかった」





だからどうしたというんだ






「ダメだよ中禅寺、主権は私にあるんだから。そんな反抗的な目で睨まないで」






狭い部屋の中、椅子に縛られて自由はきかない。

客人として来たはずのこの女は幼馴染の名前。

そのはずだった。

外国へ仕事に行っていて、会えない日々が続いていたが

つい最近帰ってきたので会いたいと連絡が来た。

そうだ、僕はそれを快く承諾して家に招いたんだ。





「今頃探し回っているよ」






笑って再開して

笑って外国のことをダラダラ話し始めて

笑って・・・・・たんだよなあ






茶菓子を持ってきた千鶴子を見るまでは






「でも驚いたよ。あんなに可愛い奥さんができてたなんて・・・」




明らかに様子がおかしくなったので声をかけたら、突然立ち上がって千鶴子に鳩尾を食らわせたんだこの女は。

僕も突然のことに理解ができなくて、そのまま同じようにされて意識を手放した。







「中禅寺も酷いなー・・・・お祝い、しそびれちゃったじゃんか」






勝手に外国へ行って、今まで音信不通だった名前が言う事じゃない。

僕はあの日必死に君を探し回ったんだ、僕を何だと思ってるんだよ。







それさえも口に当てられた布の所為で声にならない。

名前が中禅寺の髪を梳いた。くるくると弄んだ指先は下りて頬を撫でた。

擽ったい感覚に負けじと顔を伏せると、足の上に重さを感じた。

軽いようだが、確かに名前のものだと分かった。








「負けず嫌いだけど、いっつも誰かに負けるんだよね・・・・」






悲しい声だった、泣き声にも聞こえた。

思わず顔を上げると名前の頬を水が伝っていた。

自分の目を疑う。

だって名前は負けず嫌いで、いつも笑ってて。
悲しい事があったって決して泣かない、強い女で。

いつも注目されていた・・・・・あの名前が・・・・。







「また負けちゃったよ・・・・悔しいなー」







確かに名前は涙を零していた。

こぼれた涙が、僕の着物の上に落ちて染みを作っていた。

片手で涙を拭ってから震える指先で僕の口布を取る。

やっと開放された口の感覚を確かめるため、歯を食いしばった。






「・・・・・名前が泣くなんて、明日は血の雨が降るだろうね」


「案外、そうかもしれないよ。
だって私を泣かせたのは中禅寺なんだもの」






ゆっくり近づいて、唇を重ねた。

たっぷり時間をかけて子供みたいなキスをしてから

名残惜しく距離をとった。

すると遠くの方から、鈴のような声が聞こえた。

千鶴子の声だ。

その声を聞いて二人はそれぞれの思いを抱いた。







「やっと伝えられると思ったのに・・・・心外だな。裏切られた気分」


「偶然だな、僕もだよ。君が外国なんかに行くから悪いんだ」







いい選択だと思ったんだ、身と心はやせ衰えたけどね。いつかこうやって再会した時に甘い人生を拓けるかもしれない、と。

とんだ道を選んでしまったよ!




そう言って名前は笑った。いや泣いていた。








「そうだ中禅寺、賭けをしよう!」


「生憎僕は賭け事が苦手でね」


「大丈夫、簡単だから」







いい?

私が今から中禅寺さえ知らない世界に旅立つんだ

そして私がもう二度と中禅寺の前に現れないと知ったとき

中禅寺が悲しんだら私の勝ち。私は幸せだったということだ!





(そう言って僕の紐を解いて旅立った)

(ああ、こればかりは君の勝ちだよ。だから、)





 

 

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