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短篇
リターン魔-5
「貴様の様な男が我に……我等に挑んだのか?本当に勝てると思っていたのか……?」
「…………」

此方の国、魔界ではなく今現在狼人型が存在しているこの世界で、再来した魔王と言い張っている存在。
全体的な印象は毛皮が生えた牛人の様に見えるが、頭の両脇から捻じれた角が生え、口元の牙と翼も合わせて竜人にも見える。
豪勢なマントを羽織り、上半身は裸。その肉体は隆起が際立っていると魔界の魔王とはあれこれ掛け離れた格好を備えており、この世界に混沌を齎した存在としては十分過ぎる威圧感だ。

陥落してしまった奴隷と言うには本来の気力が足りない気がする。急に従順な態度を取ると言うよりは、兵士達の肉欲に持っていかれたままこの数日を過ごした様な気もする。
でも今から全力でこの目の前の存在に対して殺意の籠った視線を向けるのも何だか違うものであるだろうし。思ったよりも力が弱まっている事に気が付いてしまった今となっては、強引な力押しは難しい。と言うか無理だ。
要するに予想外の出来事に対して、狼人型自体がふて腐れてしまっていたのでそれっぽい反応をする事すら結構面倒な気分になってしまっていたのである。
一応、それでも一応鋭い敵意を孕んだ風な視線を向けて、言葉は発さずに意志を示す。このぐらいならば丁度いいだろうか。いっその事相手も魔界の住民だったら色々話が早いというのに。
側近の魔人二人は魔王よりも大柄で屈強、見張りでもある一方で狼人型を見る視線はねっとりとした欲望を宿しているのが分かるし、既に股間を覆っている腰巻も膨れ上がっている姿が見える。
あれだけの痴態を数日の間晒してしまったのだから当たり前か。やはり今の狼人型は素直に喜べやしなかった。

「……そこまで醜悪な身体に仕立て上げられても、まだ折れぬ心を持っているのだな……身寄りも故郷も何も無い身で……」
「……何が、言いたい?」

そんな設定で暫く過ごした様な気がしないでもない。てっきり相手もまた魔界の住民であり、色々やられる事も分かっていたので後は魔王に丸投げ出来る案件だったのかなと内心で思った。
入念に決めてしまうよりはそっちの方が良いな、との緩い考えに基づいていた。故郷や家族を滅ぼされたのだから復讐と、悲劇を繰り返させない正義の為に傭兵になったのだ、と。
堂々と魔王が座り込んでいる玉座、その手前には魔法陣。強引に引き連れられるまま今の狼人型は魔法陣の中央に立たせられている。
腕を翳すと、胸元に刻まれた奴隷印が淡い光を帯び、

「ぐ……がぁぁぁっ……!?」

心臓を締め付ける苦痛、と思わしき痛みに呻きを溢れさせる。それだけではない、もっと直接的な感覚が、心臓そのものを握り潰されんばかりの力で掌握されて、
そのまま外へ外へと、引き摺り出されるかの様な。

「この場で折れるまで犯される姿を見るのも、持ち堪えたとしても愉快な物であるだろうよ……お前の様な孤独な者でなければ、守るべき存在を代わりにするのだがなぁ……」
「が、ががぁぁぁぁっ……!?」

牛人の目も口元も醜悪に笑っている。いや、別に死なないけどそういった悲劇を、折れる姿を愉悦と捉えている印象、傲慢、悪趣味。下に敷かれた絨毯がやたら赤黒い染みがあるのもそれが理由であるのだろう。
魔法陣からどす黒い手が狼人型の身体を這う、伸びる。魔力と呪術に導かれるままに、奴隷印の中へと爪を立てる様にして入り込んだ。

「だが…お前にはそれが無い。調べによると家族も居ない。守るべき物も漠然としており、古くからの親友も居ない……」

この世界に来てまだ一月も経ってないからそれはそうだろう。手が心臓を抉る。とてつもなく大事な何かが狼人の中から引き抜かれようとしている。

「何度も見て来た、お前の様な相手はな……その竿を身の丈程に肥大化させようと、四肢をもぎ取ろうと折れない物は折れないのだ……だから力を奪う……」
「ぐああぁぁぁぁっ!?」
「ああ、辛いな……もっと友や家族が居れば」

愉しめたものを。そして魔王の掌は光を帯び、
魔王の全身は猛烈な閃光と共に一瞬で内部から打ち砕かれて爆発した。

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