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短篇

「……──」
青年は再び絶句した。
小さめだが先程いた部屋と同じような天井と壁、それに彫られた紋様。
立ち上る湯気がそれを隠す。
何か混ぜているのだろうか、暖かそうな色をした湯に鼻を擽る甘やかな香りが溢れている。
少なくとも此処ならば足を目一杯広げて浸かっても誰にも迷惑をかけないだろう。
見知らぬ魚でも普通に泳いでいそうだ。
「…驚いたか?ここは結構自慢な風呂場でな……」
二足狐は抱き上げていた青年を降ろし、前掛けを外した。
「……ハッ…!」
暫く湯船に見惚れていたが、自分が自由に動けることに気付く。
(今なら逃げられる?逃げてどうなる?
いや、しかしやってみなければ……)

二足狐は前掛けを丁寧に畳んで、腰布に取りかかる。
(思い切り走って右か左かに…どっちだ……)
身体に巻きつけていた紐をほどき、これもまた丁寧に畳む。
前掛けの脇に置いて、少し考え、前掛けを腰布の上に置いた。
(…仮につかまっても、いや、つかまったら駄目だから…ぐるりと大きく……)
左腕に付けられた輪っかを外して、前掛けの上に置く。右腕の輪っかも同じように。
(…やるしかないっ!今だ──)
覚悟を決めた青年は振り返った。

「!─……──」
青年、三度目の絶句。
二足狐は服を脱ぎ終えたばかり。雄なのか股には大きめの双球がぶら下がっている。
だが、肝心の竿部分は無く、臍のような孔が一つだけ空いていた。
「……さて、邪魔だから脱がすぞ?」
その裸体を隠そうともせず、青年の服に触れた。
「あ……やめっ……」
服を着たまま浸かる気か?ばたばたと暴れる青年の服をひょいひょいと脱がしてゆく二足狐。
青年の抵抗も虚しく、あっという間に一糸纏わぬ姿にされる。
「うぅぅっ……」
青年は恥ずかしさから一応手を使って股間部分を隠す。
その青年を二足狐が後ろから抱え上げた。
「わっ…あっ……ちょっ…と……」
地肌と地肌が触れ、ふかふかした胸の毛が身体に擦れる。
それが妙に過敏に感じて、背筋にむず痒さとは別の感覚が走る。
二足狐は青年を抱えたまま、ゆっくりと湯船に浸かってゆく。

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