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短篇
飛豚-11
自分の身体の中が揺さぶられる感覚を、尻孔以外の部位で感じる事になるだなんて数日前までは思ってもみなかった。緩慢な動きでありながら貫いて来る衝撃は明らかに段違いな代物で、血肉を早速内から外へと抉られていく。
骨身を削られる衝撃と痛みがぎゅんぎゅんと中に食い込んでいく。痛みに叫ぶ暇も無い。ヒーローだって踏み潰されているのだから。それどころのものではない感覚が叩き付けられながら、両手は目論見通りに問題無く動く。今の所は。

「ぐひひひひぃぃぃっ……ざまあみろっ、だ……!最後の最期まで僕は希望を奪ってやった癖にっ……希望を抱いて死んでいくんだぞっ……!」
「あああああああああああああああ」

限界が近いのはどこも同じであるらしい。アルカディア・ドラゴンの咆哮と合わせて身体に埋められたアタッチメントの回転速度が早まったのを身をもって味わえた。
光線から感じ取れる熱気が首筋をちりちりと焦がしているのが分かる。既に余裕がは無くなってきて、本格的に椅子の上へと座り込んでいたミンサーたった一人に向かってヒーロー達が迫り来る。
倫理観が狂ってしまったとしても本気でヴィランを倒さんと、此処まで集まって来たヒーロー達がここまで集まって来てくれたのだ。だがコード入力は間もなく終わる。そしてミンサーは名を残す。

最期の最期、高らかに指を掲げてエンターキーを叩き付ける様に押す事が出来ないのがちょっとだけ残念であったけれど。
血が滴るコンソールに、身体に痛みの代わりに寒気が襲い掛かって来た現状からすれば無理も無かっただろう。これで最後だ。ヴィランとして後悔の無い最期になりそうだった。

「さよなら、世」

世界へのお別れを言おうとした途端に、ぶつん、と音を立ててアルカディア・ドラゴンの尻尾の先端に新たに取り付けられていた、恐らくは電磁ブレードだとか言われる代物だろう。
それが鋭い勢いで身体の裏側から隠されていたのと共に、キーを押そうとした指先どころか片腕ごと持っていかれたのだと気が付いた。こんな時でも時間の流れはミンサーとコンソール以外どこまでも遅い。
腕が斬り落とされてから少しも荒れていないすっぱりと斬り落とされた断面と、骨と肉と血管から出血する前の綺麗な自分の中が見えていた。片腕は流れのまま勢いよく飛んでいく。
合わせて左手の指も二本程持っていかれたのが見える。痛みより前に、何とも言えない笑いが浮かぶ。

僅かな希望を見せてやってから、最期の最期でそれを奪う。
世界がまともだった頃に散々やって来た事を、此処に来てヒーローによってやり返されるのかと。

「ごぼぉぉっ……ごぶ、ぶふぅっ……」

言葉より先に血の味が舞い込んで来る。感情をどうとか表す程の余裕まで持ち合わせては居ない。咄嗟に左手の残っている指を使ってキーを押そうとしたが、カチカチと鳴り響く時計の音さえ小さくなっていく。
心臓の鼓動をそれ以上に強く感じる。最期だからこそだろうか。それとも、信じているからだろうか。
今になって扉を開き、ヒーロー達の背後より現れて。
名前も知らないどころか、その顔さえも大半を隠している様な、ろくでもなさげな返答しかない人間の事を。
たった今、ヒーロー達とは違って、鈍化する時間に触れられないまま、仰ぎ見た視界の中で愉快そうに跳躍する姿を。

「ありがとうよ!ちょっと階段が熱されてたり消えてたりワープしてたもんでな!まだ生きてるんだったら、今すぐそっちへ向かうぜ!」
「…………」

遅いよ、と言いたかったが、またごぼごぼと空気の混ざった血が口内を掻き混ぜるばかりだった。腹の内側では抉り込まれたドリルを食わされている。周りのヒーローの武器達が、間もなくミンサーの身体を貫く。
それでも来てくれた。最期になる直前であったけれど。斬り落とされた右手に代わって、アルカディア・ドラゴンの事等見えていない様に左手を添える。

(君の名前は何だい?)

霞みつつある視界の中で、確かにミンサーはそんな問い掛けを人間へと放った。

「スピークラブ・ディアハート!」

威勢のいい声を放ちながら、指先は確かにコード実行キーが入力された。

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