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短篇
性なるバレインタン1
目一杯に自室の郵便受けにたっぷりと、それはもうぎっちりと詰め込まれた煌びやかに包装された甘味類を見ながら、彼は一人溜め息を吐いた。幾ら何でも当日が平日だからと言って、あまりに急き過ぎではないのか、と。

「おっ。今年もモテモテだねえ全く」「別に嬉しくなんか…まあ、食べるけど……何で、こんなに来るの?」

声色は高く透き通ったものであり、外見からしても話し掛けて来た同級生よりもずっと低い。ついでに言えば滑らかな撫で肩で、少々コンプレックスも持ち合わせているというのに。
部屋の主である兎人がげんなりとした言葉であるのは彼が、そう、彼が紛れも無い雄であるからであり、更に言ってしまえば此処は男子寮であるのだから。行為を示しているかはどうあれ、そこまでの物好きは溢れんばかりに居る事になる。
予想通りではあるのだと、兎人である彼は少し折れ気味の耳を揺らしながら、用意していた巨大なポリ袋の中に零れ落ちていた包みを全て放り込んでいく。同性しか居ないというのに、外部に見られたらさぞかし驚かれるだろう。

「そーんで、これが俺のな」「うん、分かってたよ……お返しは期待しないでね、これだけ有ると予算も……」

隣で茶化していた狼人から手渡しの甘味を受け取りながら気だるそうに、それでも満更でも無さそうに栗色の兎人は鞄の中へと収めていた。途切れ途切れに話しつつ、足早に部屋の中へと入って行く。
個室。多少の家電製品にゲーム機と暮らす分には何も問題は有りはしない自由な空間であり、ポリ袋の中身をこの日を考慮してと空にしていた冷蔵庫の中へと突っ込んでいく。迂闊に溶かしてしまったなら、バカを見るのは自分だから。

「逆チョコって事で良いんだよな……で、今夜の件はどうする?」「どうするって、今更僕が来なかったら成り立たなくなったんだよね……よりにもよって」
「そうだなぁ…そうなっちまったんなら仕方ないもんなあ……」「……全く」

全ての甘味を冷蔵庫へと収めてから、いやらしい風に笑みを浮かべる狼人を前に兎人は溜め息を吐く。万が一でもばれてしまったら全責任を負うと言質は取ってはいるものの。本当にやるのか、と。
何よりも人数も集まってしまって、大事になるのは間違いないか、と。最初は反吐を吐いてはいたが、既に期日は本日深夜。
先走ってじわじわと息苦しい不安と緊張を和らげる為にと、携帯の電源も切って鍵は施錠、兎人は仮眠を取る事にした。内心で膨らみつつある待ち遠しさと期待を守る為でもあった。

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あきゅろす。
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