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短篇
混濁9
「……くぅ……っんで、こうなるんだよぉ……」
「良いから変に緊張するものじゃねぇぜ……ほーら、ゆっくり呼吸して力を抜かないと出て来ないぜー……?」
「っ……わか、分かったから、もう触るなぁ……」

きっちりと身体を洗い、相手が持って来た魔物の肉を焼いて食らい、毛布代わりに外套を被ってぐっすりと眠った翌朝の事。既に彼はその異物感の正体が、何であるのかを嫌でも理解せざるを得なくなった。
速やかに相手によって手際よく、疼きつつあった身体によって殆どされるがままに準備が推し進められている。下半身を剥き出しにした彼の足下には水を張った桶が用意されており、力んで出て来た物は真っ直ぐ落ちる筈だ。
既に日も昇りきっており、朝起きてから再度炊き始めたらしい香炉の匂いは爽やかなものだ。なのにどうしてこんな事をやっているのかと、彼は悔しそうな表情を浮かべるのだった。
それ以上に、朝という事もあってか、または丁度良い箇所を異物が押し上げているからだろうか、下半身には仄かに雄の香りを残す竿がしっかりびんと立ち上がっているのだ。にやつく相手が憎らしく、恥ずかしくもあるもので。

「はぁぁ…んぁ………」「よしよし、良いぜ…ゆっくり解れて……このまま俺が出した方が良いか?それとも……」
「んくぅ…っ……い、良いから…このまま、でぇっ……!」

簡易的に作られた腰掛け、または開脚台に座り込まれながら、入念に相手の手によって潤滑油が塗り込まれた尻孔が、内側から蠢いてもこりと入り口が盛り上がった。漂う匂いはそれが排泄物では無いと知り、相手は尚も笑っている。
ぐぐ、と相手が更に力んでいく内、ゆっくりと尻孔がぐぐっと開いては、其処から露になったのは宝石であった。相手は喜んで笑った。

「あぁ……っっ……くそ……くそぉ……」「……へへ、中々良いじゃねえか……ちゃーんと俺の中に溜まってた宝石は…お前の中で固まってくれてよぉ……」

涙ぐむ彼はただ羞恥を覆い隠す為の涙である事等既に分かりきっており、顔を掌で覆いながらも、相手の指で摘み上げられた宝石は確かに彼が求めて居た輝きを秘めている。
小指の爪先程の大きさであっても結構な値段で取引される代物。大きさに関しては薬を買い溜めるには何も文句は無いだけの量だ。これで暫くの平穏が手に入る。そうでありたい。
涙は直ぐに消え掛かり、直ぐに顔を拭いながら掠め取る様にして目の前の宝石を相手から奪い取る。もう此処には何一つとして用は無いのだ。まだ尻に塗られた油が滑る事も気にせず、服を着直して。

「……何か有ったら、また来いよぉ?」「……誰が来るかっ…」

世話になった分、言葉らしい言葉は掻き消えてしまい、言い直す余裕も無く荷物を持って相手の住処から去って行った。右手は未だに怪我をしたままだが、左手でボウガンを扱えば、近隣の魔物ならば何とか対応出来るのだと。
思っていたのだが。

「…………」

その六つ足の魔物は、ボウガンの一撃が表面を射抜く事が出来ない程の堅牢な殻で全身を包んで。更に言うなればナイフの先端も既に相手に使用していたから、何も抵抗できる手段は有りもしなかった訳で。
逃げていく内に、崖から落ちて、切り立った岩山に身体をが存分に引き裂かれる痛みが、最期に走る感覚となった。








「よぉ、また会ったな」「……え?」

気が付けば彼は全裸に剥かれていた。また相手の住処の中で寝かされていた。尻孔の異物感は有りはしないが、夢とも思い難いのは先程の感触。右手に巻かれた包帯、左手に残る鉄の臭い。
そして彼が見下ろしてみれば、ざっくりと切られた脇腹へと、血と肉片が戻っていこうとする奇妙な様子だった。不気味で奇妙だったが、見覚えがあったのも確か。前日に感じた口内の血の味と言えば。

「いやー、なんかよ、あれだけ血を飲んじまったお前にも、力が備わったみたいでよ」「は」
「まあよ、これから気楽に過ごそうや…あ、服は汚れるから着ない方が良いぜ」「は……はあぁぁぁぁぁ!?」

その場所には危険な魔物が住み着き、貴重な鉱物が眠っているとされる。鉱物を食べる魔物の体内には、蓄積された成分が大粒の宝石を造り上げる話がある。
時々其処から、外套に身を包んだ行商が小粒の宝石を売る様になった。そそくさと去っていく姿は、何処か落ち着きが無い様な。
まるでその場から立ち去りたがっている様に、再度戻っていくらしい。


「お、今日も服買えなかったのか?」「外套一枚で買える訳無いだろ!」

【終】

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あきゅろす。
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