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短篇
混濁5
それは流行り病でもあり、十何年に一度か、海からの風を浴びてしまった者にかかるかもしれないという実にぼんやりとした情報しか存在しない。
凡そ二百年前まで遡っても、感染したとされる人は全うな両手の指があれば数えられる程度の少なさからどうしようも無いと来ている。
彼を感染者として数える場合は、利き手では無い側の曲げた中指を、再度ぴんと立たせるだけで良いのだ。そして完全に治りはしないのが厄介とも呼べる点だった。

「…………」

幸か不幸か、個別の症状に関しては市販されている薬でどうにか補える程度だった。諸々の症状を抑え込む為に彼は宝石を求めて訪れたのであり、
更に言うなれば、この場に来た時点で微弱な症状が抑えきれずに発生してしまっていた。喉が奇妙に乾く。水を飲んでも治らないのは経験している。喉元に綿でも押し込まれたかの様な。
次に感じるのは身体の体温の低下。周辺が暑くなる様に思えて、服の内側に纏って居た防御用の帷子を外さざるを得なくなった。魔物の爪も立たないとされるが、押し潰されたら終わりだ。

「がぁ……くぅ、か……」

全身がぱきぱきと音を立てるのが分かる。まるで体内が渇きを潤そうと、全身の肌から水を吸い上げるみたいだ、とは何番目の感染者の自伝で見たのだろうか。
思わず声が溢れる。唾液で満ち満ちている筈の舌が驚く程にのたうって明朗ではない言葉が溢れる。思わず頬の肉を噛み締めてしまったのか、薄い血の味が僅かに走った。それだけで。


「待たせたなーっと、お」

相手の姿を見るや否や、彼は飛び掛ってその首元に噛み付く。ぎし、と鱗と歯が擦れ合う音、顎に力が加えられた次には、強靭とされる鱗を食い破って彼の牙が相手の首の肉に到達する。著しい発達。瞳孔は縦に裂け、爪もこの短時間で急激に伸びている。
獣らしい唸り声を上げながら、彼は相手の血を音を立てて荒々しく啜り取り始めた。同時に小さく身震いをして、その視線は浮ついたものへと変化。声の中に不明瞭な喘ぎ声を漏らし放つ中で、相手が木の実と魚を詰めた籠を持ったまま、太腿辺りに触れる感触に気が付いた。

「ふぅー…っ……うぅ……」
「……おや?だーいぶアレっぽくなってるが、まさかな……」
「ふ、っ……!」

軽く膝を曲げて腿を股間にごく弱くこすり付けるだけで、彼はぶるっと震えて悶えた。性感の著しい増大、血を飲みたいという欲求、そして感度の上昇。何よりも相手から溢れ出す血は、実に甘く美味で。

「……マジかよ…だったら……たっぷりご馳走してやんねえとな……」

相手は首を食まれながら、嬉しそうに笑って。籠を床に置いて、寝台に向かう必要は無い。十分に柔らかでふわふわとした床の上にしゃがみ込んで、そのまま彼を組み敷いた。丁寧に服を脱がせながら。


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