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短篇
お金の話2
とは言っても、金が無ければ満足に動けやしないものであり、昼時に輝いている自動販売機までもが狼人を嘲り笑いながら誘っている様にも見えるものだ。一息入れられてはどうか?と紳士が語る姿が見える。
当然狼人は現在金欠であり、どうにもなりはしない筈だ。若干腹時計もくうくうと鳴り響きそうな具合である現在、無茶は出来ないだろう。例えば、目に付いたあの女性を襲ったり、など。

「んー……はっ!?」

やはり何か良い考えは浮かばないものだなあと悟りながら缶を傾けて中身を飲み込もうとした次の瞬間、甘ったるい糖分と芳しい香料を纏った液体の存在と、自分が今現在握り締めている缶ジュースに気が付いた。
無意識の内に、または身体が求めるままにどうやら飲んでしまったらしい。やらかしてしまった、通りでポケットの重量がやや増加している訳だ。本気で凹みながら、家に戻る気にはならなかった。

「そこのあなた」
「……くそっ、やっちまった」
「あの、そこのあなた」
「こうなったら日雇いの…でも怖い人に出会うのはやだなあ……」
「そこの狼人の缶ジュースを持った今まさにとても困っていそうなあなた」
「はい?」

呼び掛けられるままに振り返ってみると、こんな時にもスーツ姿に身を包み鞄を片手に携えた、きっちりと身なりを整えた中年の猪人が其処にいた。年齢相応に腹は出ているが範囲を越えておらず、固肥りしたというのが正しいだろう。
営業スマイル以上にニコニコと人懐っこそうな微笑みをその顔に浮かべており、深く頭を下げられて狼人を思わず会釈を返す。挨拶は大事である。怪しがるのはやってからでも構わない。

「それでは」「お待ち下さい。何も私はただ冷やかしに貴方に話しかけたのではありません。お金に困っているでしょう」
「ジュースを衝動買い出来る程度にはお金が有りますが」「お待ち下さい…五桁は欲しくないのですか?」
「ごっ」

五桁とは流石に怪しいけれども美味い話なのでは無いかと、狼人の頭の中の天使は呼び掛けた。五桁とは素晴らしく断る筈も無いが、警戒するべきではないのかと狼人の中の悪魔は警鐘を鳴らした。何も間違ってはいない。
天使の言葉が正しいならば、悪魔の言葉は警鐘だ。本気の選択、狼人の中の良心が成り代わっている。ぞわぞわと背筋が逆立つのを感じる、もしかしたら犯罪的なアレではないのだろうかと

「やります!ある程度は悪事も平気です!」

答えた狼人の瞳はキラキラと、まさに子供めいて輝き、話し掛けて来た彼も少しばかり引いた。

「あふぁ……ひ……ひ、ぃ…ひ……」

人間の背中からやっと機会が離れて、プログラム通りにがちゃがちゃと音を響かせながら歩いて部屋から去っていく。体内に内蔵していたタンクの中身を全て腸内に吐き出してしまった事になる。
口枷を存分に涎で濡らしながら限界まで開発され尽くした尻孔は入口周りの肉が程よく晴れ上がり、ぽっかり開いた内側には白濁の海が溜め込まれていた。其処に影が現れる。本物の生身の魔物だ。

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