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短篇
アレする6
生まれてきた命に罪は何も無いと、国王は元より持ち合わせて来た慈愛の精神だけでなく、純粋な母性と合わさって自らの胎の中から産まれた仔を存分に愛した。城の傍に捨てられた仔として拾い上げた事にして。
同じく身寄りの無い仔の集まる孤児院にその身柄を預けて、時々に国王は同じ様な孤児院へと訪問してはすくすくと育つその姿に顔を綻ばせて居た。一方で、その存在を訝しむ国民は幾らでも居た。
際立って目立つ朱色の鱗に、まだ幼い身でありながら容易く薪として割る前の輪切りにした木を持ち上げる屈強な力。もしかしなくても彼の仔なのか、ならば身篭らせた相手が居るのか、と国の中でも探された事は何度かあったが、結局見付からない。

「仮に強引に産み出された仔であっても、こうも育てればきっと応えてくれる。今度は彼の血を引き継ぐ者がこの国の兵士になるのかもしれない。嬉しい事だろう?」

あくまで呑気な雰囲気で国王はそう語れば、周りの重役達も何一つ意見を出せずにいた。圧倒的な彼の力は噂話に尾鰭が付いているのかすら定かでは無い程度に膨れ上がり、今でも鮮明な記録として語り継がれて居る。
彼をまともな動かせる者が居たのであれば勝てていたのでは無いかと敗戦国は自嘲気味に語り、彼が居なければもっと被害は、あいつみたいに被害は少なく済んだのに、と傷跡の目立つ兵士は嘆く。
未だに足取りを掴めない蜥蜴人の存在は忘れられる事が無い一方で情報が全く出て来ないまま、もしや死んだのでは無いかとの噂話までも出て来れば、酒の席で溢れた言葉。俺が足の腱を切って薬を打ち込んでやったんだぞ、と。

元より丸裸で飲んでも誰も咎められない様な場所であったが、その言葉を耳にしていたのは国王直々に派遣した密偵も含まれて居て。忽ちにその店どころか界隈が、国の中に潜んだ黒々とした部分が一斉に洗い出され始める事になる。
先代の王の死、懇意にしていた、祖父代わりであった重役の一人も病として倒れ、実質的な権限は大方国王へと移ったその時、行ったのは今まで黒々と塗り潰されて居た闇を払う事であった。

「……もう、遅いのでは無いでしょうか」
「今からは無いだろうさ」
「…………」

一枚噛んでいた重役もまた、言葉を吐きながらも連行される事になった。処刑台の上へ。一人も殺さずに開発を行える者など居らず、発覚した限りでは十人以上の者達が命を散らして居るのが罪状のごく一部。
戦乱の時代が終えてから新王が行ったのは、悪の血を土台にたっぷりと染み込ませる事。裏へとの別れ、夢物語の始まりである。薬があるから使えぬ腕を切り落とす事が出来るというのに。国民の中では大いに賛否が沸き立つ中、そんな話が吹き飛ぶ程の出来事が。

その一、国王は装飾品を嗜む様になる。至って在り来たりとされるが、何処か趣味が悪い、男が着けるものでは無い様な意匠を施されたものを好んだ。
その二、国王は爪を染め、首回りの鬣を短く刈り揃える。その三、国王の服がやたらと女物へと変わる。この二つの変化はあまりに忽ちであったからこそ噂話が沸き立つ中で。
その四、国王の腰つきが括れる。胸元と臀部が膨らむ。筋肉は備わっていれど頑強なものではなくしなやかな風に変わり、その喉元の強張りまでもが無くなり、低いとは言えども十分雌の声色になった。

「……いやはや、驚きだよ」

まるで他人事の様に、国王である「彼女」
は、笑うのであった。

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あきゅろす。
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