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短篇

恐るべきは国に就いた彼なのでは決して無く、彼という存在そのものが脅威であり凶悪であるのだと国民が理解し、捜索の為に大部隊が配備されてその国から敗戦国は徹底的に探し出され、懸賞金まで用意される。
有力とされた情報がいざ気付く前に、一週間も経たずに国王は解放され、急増された貨幣の類は幾らかの値崩れを国の中で引き起こし、他国との貿易がやや滞って。国王は特に外傷も無く、国民は大いに喜んだ。
後に捜索隊は彼の姿を捉え百人単位の兵士、十数人の魔導士を使って追撃、捕獲、または殺害に取り掛かったが、確かに腱を切断した足の遅さを持っても、彼には誰も届きはしない。
武器として使用していた鉄枷ごと崖へと落下した姿を確かに数人が確認して、無事に彼は倒した、と報告を送れば、国王は満面の笑みを浮かべたのであった。もう彼を阻む存在は今は何処にも居ないのだ、と。
それでも何かあったのだろう、国王はそれから然程国民の前に姿を見せなくなった。傷があるのかと先代の呼んだ医者にも身体を触らせもしなかった。それから時間が経つ程に、更に姿は見えなくなる。周りの召使いも先代にもめっきり会わず、国民達にはこんな噂が広まった。
国王は毒を盛られてしまったのだ、と。

「っうう…はあ……ああ……」

先代を知る老人達が言うには、彼は優し過ぎるのが唯一無二の欠点なのだと誰もが口を揃えて言い放つ。極刑を好まず、一方で凶悪犯は屠るしか無いと理解もして居る、故に顔を抱えながら兵士達に命じるのだ。
一部の兵士達が捕虜他に対して行って居る戯れなど、気付いてしまったならば国外追放と入国禁止の措置か、百年単位の幽閉は免れないだろうが。疑わしきを罰しないとの元、入念な隠蔽と暗黙の了解にて裏側は今日も保たれる。
調べる暇も無い、国王たる者文武に努めるべしとは先代でもあり彼の父親から幼い頃から叩き込まれて居る。少々背丈の小さな体格には確かな筋肉を備え、その頭脳は日々学者によって新たな知識を得て居た。最近はめっきりだったが。
由緒正しき鬣を纏ったハイエナ人であった。種族とは裏腹に誇り高く気品が備わって居た。その体格には程よく美しい筋肉を纏った上で、腹部は丸々と膨れ上がって居たのだ。
ビリビリと頭の奥底にまで走り抜ける痛みに、食べ過ぎとも考え難いその痛みにあわせて蠢くのだ。その身体が、身体の奥が、腹の中が。どうにもならないまま、彼は塞ぎ込むばかりしか出来なかった。その身体の秘密を、誰にも知られなくなかった。

一つ、彼は両性である事。
そしてもう一つ。彼の胎の中には、既に蜥蜴人の子が宿り、もう直ぐにでも産まれそうな事。


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あきゅろす。
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