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短篇

「…………」「…………」

半竜に導かれるままに獅子人が辿り着いたのは小高い丘であった。屋敷から暫く歩いた先に有る其処からは町並みの穏やかな景色が見える。時間が経てば夕陽に照らされてしまうだろう。
近くに有った平たい石を使って、がりがりと半竜は地面を削り、掘り始めて行く。ちっぽけな身体に見合った小さな手をして居たし、難儀して居たが獅子人は力を貸さない。
どうしても自分でやりたいのだから。そう言葉で無く動きで半竜が語って居ると十二分な理解をして居たが為。腕が余裕で埋まり、半竜の捲り上げた袖にまで土の粒が付着する様になった頃。

「…………」「……誰のだ」「分かりません」

あくまで偶然の事なのは違いなかった。その時から日々の予言を主の為に行って居た半竜は相変わらずうんざりしながらも行うしか無い自分に嫌悪感を覚えて居たし、彼はそんな半竜を思いながらやはり従うしか無かった。
名前も教えてくれなかった、扉の隙間から目元と右手の指先だけを見せてくれたその存在は大人びた口調と子供らしく甲高い声で彼に話し掛け、食事受け取り口から落としてくれたのだ。
どうか景色の良い場所に埋めて欲しい。それが自分の為だし、何より君の為にもなるだろうから。それからめっきり会わずに数月経って、やっと念願が叶えられたのである。

「もしかしたらあの人も、僕と、同じだったのかもしれないです」
「……力を持ってる、と?」「現に僕が、救われたのだと……貴方に出会えて、言葉も叶えられて……」
「……これからは」「帰ります…結局僕には、あの部屋じゃないと……」

残念だと思いながら、獅子人は半竜の頭の上に手をそっと置いた。流れ溢れた血は水で洗い流すよりは、十分に乾かし切って固まったものを払い落とせば水が無くとも大体は落とせる。
相手の事を優先したが為に結局洗い落とす必要が有ったが。びくり、と頭に手を置いた途端半竜が震え動いたのが目に入った。何事かと獅子人が疑問を抱く程度には大きく。
髭が同時に揺れたのだからある意味では当然だろう。しかも顔には穴を掘ったばかりか赤みが引かないのだし、何か有ったと考えて当然だった。

「……その……もう一つ…良く分からないのですが、血の匂いで、僕は発情してしまうのです」
「……なんと」

予言をあまり快く思わない理由の一つで有った。嘘を吐かなければ血生臭さに、半竜自身が発情しっぱなしになるのだから。処理の仕方は知って居るらしいが、打ち明けてしまったのは獅子人への信頼によるものか。
出会った以前に抱いた感情に、獅子人は確信した。自分は紛れも無くこの半竜を、出会った時から好いてしまって居たのだと。普段は然程揺れない尻尾を軽く揺らしながら、更に肩を抱く。

「……」「……あの」「…………」「…………っ」

目の色だけで、自分は決して逃げられなくなったのだと、断る暇すら与えられなかったと、半竜は知った。

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