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短篇

半竜は運ばれて行った。手枷に嵌められた鎖を伸ばした状態で、まずは屋敷の主の元へ。年齢からしては運んだ彼よりも高く老人に片足を突っ込んで居るだろうが、その体格相応に纏った筋肉は萎む気配すら見せない。
同じく支配欲に関しては最早止まらず、欲しい物を手に入れる事に通じるものは金から人材、主本人が備える力量からして何もかも備わってしまった。国を相手にしても十分立ち回れると彼は内心で読んで居た。
合わせて半竜の力が加わると最早無敵に近いどころでは無い、完全に無敵となってしまって居るのだろう。このままではいけないと思って居るが、逆らう程に愚かでは無い。愚かを通り越して今更反旗を翻すのは、白痴以上の何かだ。
無傷で捕獲したと報告をすれば主は笑いながら、半竜の元へ近付きその頭を撫で回す。光景だけ見たら初孫を可愛がる祖父にも似て居るが、逃走を許した見張りの顛末を知って居る故に彼は緊張を保って。
今度は逃げない様に両足を切り裂いてあげようか。嘘だよ、そんな事大事な君にやる訳無いじゃないか!無表情ながらも恐怖を浮かばせる半竜を見て主は楽し気に笑い、髭を撫でてからその細やかな首に輪を嵌めた。

「…………」

一定の魔力範囲内に出てしまうと、今回の場合は屋敷の半竜にあてがわれた範囲の外から出てしまえば、首輪がきりきりと締まって、死んでも締まり続けて、最後には首が落ちてしまう。
やはり半竜を怖がらせる事が楽しそうで有りながら、彼が大人しくして居れば死にはしないとの話だ。彼もまた何処かで胸が痛む。しかし何も答えられない。
次に命じられるのは、半竜の範囲内へと運べ、という命令。素直に彼は応じて、半竜の手枷に嵌められた鎖を引っ張って相方と共に連行する。何も言わない、言っては一気に溢れてしまう様な気がするから。
それでも振り返ってその顔をちらりと見るだけでも、心がキリキリと痛むのが分かる。済まない、と心ばかりの謝罪と合わせてチョコレートの一枚でも手渡したいが、相方の居ない間に行いたい、今は出来ない。

「残念、でしたね」
「……そう、だな」

まさか半竜の方からそんな事を言うだなんて、それとも居なくなってしまった見張りへの慈悲からなのだろうか。或いは半竜としての能力が、全てを悟ったのかもしれない。

「…………」

その獅子人は屈強な体躯に比較的ラフな服装をし、しかも血飛沫までもが似合って居る様にシャツとズボンとに飛び散って居るのが見える。両手両足は更に赤く汚れて。相方に向かって、低い姿勢のまま突っ込んだ。
纏った血はそれだけの相手を気絶か殺しでもしたのだろうか。考えながら物音に気が付いた彼はペン型の道具をすらりと取り出す。不意打ちにも慣れた自分を心中で笑いながら、馬車の時と同じく釘状の弾を放って。
あっ、と半竜は気が付いた様に口をぽかんと開いて髭を鼻先で揺らす。獅子人の身体に放たれた弾が突き刺さった。血が溢れ出る。命中した箇所からでは無く手足から。彼は更に悟った。結局この獅子人と半竜とは、同じ存在だった、のだと。
殴り飛ばされた時の威力はそれこそ馬車に撥ねられたの如く、その中でも骨が折れた感覚は無しに。ああ、加減してくれたのか。ならば半竜を追って此処まで来れるのもまた。
彼は満足して、意識を落とした。半竜への安心感を抱きながら。

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