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短篇

馬車と並走する時点で異常な存在、その上明らかに馬車の中身を、半竜を捉えて居るのだから敵として認識、懐から取り出したのは煙草では無く魔導射出装置。大層な名前の割に、ペンにほど近い形状をして居る。
射出部分となる尖った先端を獅子人へと向けて、側面に備え付けられたスイッチを押せば硬い感触と合わせ、後部の魔力の込められた鉱物に反応、先端から弾が射出される造り。
こうなっては仕方無いのだと割り切るだけの経験を彼は積んで居る。今では吐き気も感じなくなったが、その割に虚しさばかりが身体を襲う様になってしまった。
それでも彼は、躊躇わない。スイッチの射出に合わせて、釘状の弾が彼の手に反動を残さずして射出され、窓に穴を残しながら獅子人の頭に向かって飛ぶ。暫くすれば弾は消失し、穴の空いた変死体が残るだけ。
ぱん、と音を立ててガラスに罅が入り込み、其処に獅子人の姿は居ない。挟まれる形で隣を見る、何も居ない。背面、前方、誰も居ない。先程の光景は白昼夢だったのだろうか?

「…………」

否。獅子人が潜んで居たのは、馬車の真下で有った。前後の車軸に両手両足を絡み付かせ、窮屈そうに身体を折り畳み、尻尾で地面を掃いたりしない様に。早馬に相応しくお高めの馬車なのは獅子人にとって幸運である。
荒れ道を飛ばして進んでも座席の中に不都合が生じない様に、車軸には幾らかの弾性を増やす補強が施されて居る事も。窮屈な事には違いないが、違和感らしい違和感は無いだろう。

「……あいつの事を知ってるのか?」「……顔見知り、です」
「どのくらいの仲だ?助けを求めた、なんて訳じゃ……」「ケーキを顔に叩き付けられました」
「……そう、か……」

まずい事になってしまったんじゃないか、彼はこれもいって明確な理由が無いが、本人の直感に基づいてそう考えが浮かぶ。通りで彼の顔から甘い香りが仄かに漂って居る訳だ。
それだけの関係なのに、平然と彼は馬車へと並走して助けに来たのだ。正義感の強さだけで無い、それに見合った力を備えて居るのだとしたならば。噂話に過ぎないが、彼の頭には様々な想像が浮かぶ。
例えば西には村一つの天候から気温まで全てを司るとされる馬人の存在、斧を頭で受け止めても刃の方が砕けてしまったとされる蜥蜴人は南の大陸の噂話。逸脱した存在は滅多に居ないが、何処にでも現れるのだ。

「……いい奴そう、だったな」「顔を拭いてくれたんです……美味しかったです」
「帰ったら食べてみたいか?」「いいえ、そこまでは……」

逸脱した存在ならば、半竜にも該当する。力を単に使うだけで持て囃され念入りな保護が施される半竜の存在に、彼は何処かで密やかな憧れを抱いて居ないかと言えば嘘になった。
複雑な思考の中、彼の仕える存在、ご大層な屋敷が見えて来る。流石早馬。それでも結構な時間が掛かった、半竜があそこまで逃げ出せたのも相当なものだろう。

「……すまないな」「……何がですか」「いや、良いんだ……」

そんな努力を無下にするのか、とふと思い付き沸き上がり出した感情を必死で押さえ込んで、思わず呟いてしまって。何だかもやもやを今夜は一息に、酒でも飲んで制したくなって。
馬車置き場にて従者を落とし、獅子人は緩やかな侵入に成功した。

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