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短篇

どうして彼がスーツ姿の二人に挟まれる形で馬車に乗せられたのか、両腕に嵌められた手枷より伸びる鎖が馬車の底面に繋げられ逃げられない様にされて居るのか、全ての理由は彼の種族が元となる。
犬と狼、獅子と虎と言ったそれぞれ似通った種族間では子供は成せない訳では無く、その合いの子の更に子や孫にまで進めば全く持って普通に、ありきたりになってしまうのである感は否めない。
しかし彼の場合は、人間と竜人との間に生まれ出でてしまった存在であるからこそ。鹿角の生やした犬人、鱗の生えた猫人、人間の存在はその程度他の獣人や竜人の類と離れて居る、故に稀少で貴重。
その上彼が魔法という概念では言い表せない様な力をその内側に秘めており、直接的な資産増加に繋がるものだとしたら周りの目すら気にする必要も無い。街一つ焼け野原にしてもおかしくないだろうが。

「やってくれたな」「…………」
「……誰かに渡した、なんてのは無いだろうな?」「…………」
「ま、お陰でお前の警備…護衛はきーっちり強化される。窓は指二本も開かないし格子の太さも本数も増し増し、床張りもついでに替えてやるって話だ」「それは、ありがとうございます、はぁ」

礼を告げるついでに露骨に溜息を吐く半竜の姿に、左脇に控える強面の彼は鼻を鳴らして笑った。露骨な諦めの色、今後彼が気にして居る足首の浮腫みも気にせず枷も頑丈な物になる事は言わないでおいた。
愛情だとか友情の類は抱いて居ないが、付き合いは長い。度々の脱走癖は徐々に積もって、遂に先日完全な脱走を計ったのは処置が必要だが、拘束が重くなったのは素直な同情を覚える。
無論その根底に存在する感情自体は、半竜以上にえげつない目に遭った末にあんな事やこんな事になった者みたいにはなりたくない、という自己保身。

「……あ、悪い」「…………」

いつもの癖で胸元の煙草を吸おうかと思ったが、髭に匂いがついてしまうからと毛嫌いして居た事を思い出して詫びの言葉と煙草を収め直す、その程度の仲。
早馬の馬車と自分以外もう一人、彼もまあ事態は理解して居るだろうしだからこそ半竜な彼とも言葉を介したりはして居ない。協力して自分達も抜けるなんて事やったら次は八人来る。退けるか引き込んだら百人力が来るだろう。
故に仕方無いと割り切ってそれなりの付き合い以上には踏み込んだりはしない。それが長らく彼を見て、彼以外の最期も見たりして、馬鹿笑いを無くした彼の生き方。
無論それがベストとは少しも思って居ない。願わくばスーパーヒーローでも来て自分等の上を叩き潰して欲しいとは、人並みの正義感を心に残してしまった彼からして毎日の様に思って居るが。

「…………ん」

現実問題枝葉をいくら落としても反粒子の護衛役としての彼と同等の権限を与えられて居るものはざっと百人、その下にも部下が居る上司が居る、トップの元にはそれだけえげつなく、トップが一番えげつない。
彼の部下が嘔吐を抑えられない光景すらまだまだ軽い部類とは容易に想像出来るし、故に彼は昇進を嫌って、やはり自己保身を主に考えて居たのだが。蹄の音に紛れて、確かに獅子人の足音が聞こえて来て居た。
具体的には、馬車と並走して居る。なんてった、まるで、半竜を助けに来た正義のヒーローめいて居るじゃないか。

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あきゅろす。
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