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短篇

硝子の様に透き通った事も有ってか、美しく長く伸ばされたそれが整えられて居る事も含めて煌びやかな触覚の様にも見える。肉球の付いた掌でするすると撫で回して見たいな、と考えながら、獅子は改めて頭を下げて詫びた。

「そんなに気にして居ませんよ…美味しかった、ですから」
「そうだ、何時も繁盛して居るあの店のお勧め品で……ああ、話を弾ませて居る暇も無かったな」

口の周り、舌では届かない箇所にべったりくっついたクリームを、フルーツの欠片も綺麗にすれば、それなりに綺麗にはなって、明らかに整った顔立ちが獅子人にも見える様になって。
その上で確信したのは、彼が純粋な人間では無いという事。瞳の奥底に存在する瞳孔も縦に裂けて居るし、口元から覗いた舌先は縦にほんの僅かに分かれて辛うじて二股の様相で有る。
不釣り合いだ、と思いながらも、幼い風な顔立ちに立派に髭、というシュールでコミカルである彼は、確かに悪く無い、寧ろ綺麗なのだと、獅子人は視線を向けながら思ってしまうのであった。
ケーキの類がたっぷりと付着したハンカチを汚れた箇所を包み込む様にして丸めて、潰さない様に優しくポケットの中へと戻す。後で念には念を入れてズボンも洗おう、問題はまだ汚れが見える彼である。
不幸にも獅子人はハンカチ以外ティッシュ等は持って居なかったのだし、彼は舌と指先で処理してしまいそうだ。美味しいし潰れたケーキからしたら有難いだろうが、後のべとべと感は耐え難い。

「……近くに公園が有るが、そこまで行ける時間は?」
「まあ、何とかなります……べたべたし始めたから、早く行きたいです」
「そうか……」「んみゅ」

気が付くと獅子人の掌は、吸い込まれたが如く彼の頭を撫で回してしまった。爪にも引っ掛からない独特の指通り。触ってて飽きない、いや、飽きるどころか何も言わずにしては駄目だろう。
逃げなかったのを不思議に思いながら、また小さく詫びを入れてから手を離す。あまり表情の変わらない顔を見ながら、次には髭を引っ張りたくなるかもしれないので彼について来てくれと告げ、次にはゆっくりと歩き始めた。
とは言え圧倒的に体格差のある獅子人と半竜である。歩幅からしても圧倒的に差が有り、のしのしと進む獅子人の背後で、ぱたぱたと小走りで後を追う音が聞こえ、時々止まりながら獅子人は公園へ向かった。
彼の姿が背後から消失したと気付くのは、それから数分後になる。更にはあからさまに怪しいスーツ姿の集団が、布でくるんだ何かを数人がかりで運んで居る姿も。
少し考える事も無しに、獅子人は一度溜息を吐くと、やや急ぎ足で集団の後を追った。従者付きの馬車を、それも早馬を使っての全力の疾走。ハンカチの中身が漏れ出す感覚は、今は気にしない事にした。
馬車の先には国境が有る。建物は少ない、目標は国越えか。それとも、元の場所へと戻る事だろうか。思考を広めながら、獅子人は駆け抜けた。大地を抉り取るかの様な低い姿勢で。

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