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短篇
バサド-1
「この俺が間に合わせに来たぞーっ!」

日付が変わったばかりの出来事である。周辺の迷惑も顧みずに扉を叩く何かが居たので、通報の準備を整えてから開いてみれば。
にこやかに此方に向かって笑う姿が居たので、その姿があまりにも得体の知れない恰好であったので、反射的に扉を閉めて施錠してしまった。
一呼吸置く。インターホン越しに見て置けば良かった。二呼吸目を済ませてから一旦水を飲んで落ち着く。

「……やぁ!改めて言うけど間に合わせに来たぞっっ!」
「…………」

見計らっていたのか、落ち着いてからドアスコープを覗き込んでみるとそこにいたのは紛れも無い異形の存在。
であるだけではなく異形である上に何かと得体の知れない恰好をした奇妙という外ない存在であり、

「さっき扉を開けてしまった時点でこの俺の事を認知しているのだろうっ!入れてくれなければ日の出まで居着くぞ!玄関に!」
「……何なんだよ……本当にっ……」

威勢の良い調子で恫喝まで仕掛けるものだから、結局観念して家の中に入れる事にした。
本当に何であるのか聞きたい事もあるし、通報が本当に通用するかどうかすらも危ういものだと一目で分かってしまうぐらいの異端、
奇妙を通り越して人間では無い存在である。

「改めて迎え入れてくれてありがとう!さて、この俺が間に合わせに来たぞ!」
「……何が何だか本当に分からないんですけど、あの……何なんですか?貴方は」
「よくぞ聞いてくれたな!」「あと、夜なんで声は抑えて欲しいんですけれども……」

第一にその頭は人間のそれではなく堂々とした竜の顔立ちに鬣も角も勇ましく生え、楽しげに笑う程にその牙の鋭さを強調する様であった。
腕まくりしている肉体は全てが分厚いと形容される様な屈強な筋肉に包み込まれており、柔らかなクリーム色の鱗も何とも言えない滑らかさ。
太い尻尾に指だって太い。というのが基本の見た目。

「お前は年末期間、これといって浮いた話も何も無く過ごしていただろう?」「……まあ、掃除はしましたけれども」
「そしてこの年になっても特に何も言わず、そして月が変わってもまるで何もありはしなかっただろう?」「……まあ、厚手の毛布は出しましたけれども」
「そんな寂しいお前に対して、間に合わせる為にやって来たのがこの俺……バレンタインサンタクロースドラゴンの俺だっ!」

通りで人間にだって分かる程度には際立った赤色に白の縁取りをした服を纏い、頭には同じくポンポン付きの帽子を纏い、担いでいる袋には山程チョコレートが詰められている訳である。

「という訳でメリークリスマスでハッピーバレンタイン!それと新年あけましておめでとう!このチョコはお年玉代わりだからお返しは要らんからな!」
「……いえ、まあ、えーっと……貰えるんだったら貰っときますけれども」

指摘されて分かる程には寂しい時間を過ごして来たことを改めて認識してしまいながら、差し出されたチョコレートは小奇麗なラッピングと重量感を秘めた代物である様に感じ取れる。
そこまでは良い。どうせ一人暮らしだったし実家にも帰っては来ていないし。チョコ一枚で間に合わせられるんだったのならば、大人しく帰ってくれるんだったらもうそれで構わないとも思ったけれども。

「さっき言いましたよね、貴方は「バレンタインサンタクロースドラゴン!」……はい、まあ足し合わせた要素は一応……一応?分かりはするんですけど、どうして」

上半身の赤白に帽子、それと袋という恰好からサンタクロースであるとはピンと来てしまったのだけれども。
竜人なのは今年が辰年だから、それと時期的とチョコレートからバレンタインの要素もあるにはあるが。

「どうして褌なんですか?」「何を隠そう、バレンタインは褌の日でもあるからなぁ!」

淡い色合いをした竜人の身体にも実に強調されている、桃色の布地にハート側を誂えた褌。
気付いて貰えた事を嬉しい様に笑っていたが、扉を開いた途端に一番最初に目に留まったものであった。

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