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短篇
装うの2
地図の上では近いかと思ったが、実際に赴いてみれば入り組んだ路地裏を何度も曲がる必要があった。車はおろか自転車でも怪しい程に狭くて細くて長い道があって、それがずっと続いているのだ。
スマホの位置情報を確かめるにしても何度もぐるぐる同じ場所を回っている様な気がしてならない。あんまり長いと素材や衣装を持ち帰れるかどうかも不安になって来る。
帰路にしても迷いやしないかとも思っていたけれど、それでも暫く歩き通している内に、急に景色が開けていく。

「うわっ、すっご……」

思ったよりも歩き通した甲斐もあったと思える程に、怪しくも煌びやかにハロウィン仕様に彩られた店であった。
プラスチック製ではなく本物のカボチャを彫り出して中に蝋燭を詰め、怪しく輝くジャック・オ・ランタンが複数個人間を迎えている時点でただの店ではないと分かる。
案山子に蝙蝠、周りの寂れた風景と空間の広さと合わさって、まるで客として入り込んで来た者を大口を開けて待ち構えている様にも見えたが。
「OPEN」の看板だって多少文体が悍ましいながらも掲げられているし内側の見えない窓越しに明かりだって灯されている。

少し呼吸を置いてから、意を決して木製の引き戸に手を掛けていざ入店。
そう言えば服屋なのか仕立て屋なのか、店名も何も掲げられていなかったなと思いながら意を決して中へと入り込んでみれば。

「……う、うわぁっ……」

年甲斐にもなく何とも言い難い感嘆の声が溢れ出してしまった程に、その中に待ち構えているのは外装と同じくどこまでも深いハロウィンであった。
おまけにマネキンに着せられているローブにとんがり帽子、店内に掲げられているカボチャは流石に造り物でなければおかしいサイズ感だって備えているのだから。

「ああいらっしゃーい……こんな格好でビックリした?こういう時期なんだから許してねぇ……」
「うわぁーっ!」

次に溢れ出したのは呼び止められた声に合わせて視線を向けて見た結果、純粋な驚きによって溢れた声である。
人のコスプレと言うにはあまりにも、あまりにも突拍子が無く季節柄には抜群に合致しているという奇妙で驚きの存在。羽織ったマントから覗く肌の紫色、そして頭部はそのまま不気味な笑顔を浮かべるカボチャを被っているかの如く。

「トリックオアトリート!なんてね……こういう時からお客さんが来てくれるだなんて嬉しいよ……たっぷり楽しんで行って欲しいねえ」
「あっ、ありがとうございますっ……何と言うか、凄いですね!こう、凄いです!」
「此処にくるお客さん皆似た様な言葉を返すね……色々力になってあげるから、ゆっくして行ってね、ケケッ……」

如何にも怪しい笑い声が紛れ込んでもいる。動く度に頭の中の炎が揺らめいて見えるのはあまりに生々しくてリアルに見えるものであり。
如何にも怪しいものがあるばかりの空間の中では、勝手に閉じてしまった扉が施錠までされてしまった事に気付く筈も無い。

「仮装をしたい?だったらこっちのコーナーが役立つと思うよ……ん?」
「何かこう、すっごいリアルですね!あの人形も全部本物みたいな感じで!」「……そうかい。それは本当に、何よりだ……」

垂れ幕に仕切られた奥の方へと肩に手を置かれたまま通されたのは、如何にもな着ぐるみの立ち並ぶコーナー。
ミイラと強引に掛け合わせた様に、全身をびっしりと鱗に包まれたリザードマンが最初に出迎えてくれていた。

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あきゅろす。
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