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短篇
装うの1
「うーわぁ……」

楽しい楽しいハロウィンが迫る中、何となく去年に作ってみた仮装を流用出来ないかどうかと取り出して見た結果、強烈に酸っぱい匂いが壮絶に漂って来て思わず顔をしかめた。
同じく使い回していた真空圧縮袋の裏側に巨大な亀裂が走っている様子から何が起こったのかを察する。取り出してみたらボロボロっぽく仕立て上げた部分が残さずボロボロになり果て、羽織る気にすらもなれやしない始末。
早速スマホで撮影して、去年のカメラロールを探ってみればえげつない変色をしていた事にも気が付いて長い溜め息一つ。画像を添付して『去年と同じ仮装は無理』とグループに送った矢先、着信音が響いて来る。

『大丈夫か?あの衣装って結構手間掛かったんじゃねえの、っぐ、はっ』
「あー……手間は掛かったけど値段はそんなでも無いから大丈夫だけれどな……最近の百均も偉大だよ」
『そ、そうかっ…っひ……で、でもよ、新しいのって、作れる、のかっぁ……?』

ちょうど作業中だったのかも分からないが、がさごそという衣擦れの音と共に声の合間合間に呼吸音も大量に混ざる声。
投げ掛けられる言葉の通りに材料費の高騰を作業時間によって強引に押さえ付ける手法を取ったのが去年であり、周りからの仮装も多いに好評であったしちょっとバズりもした。
彼にしても十分にいい出来であったのだと自負している一方で、空いている時間の大半が仮装製作に掛かったというのはどうやっても無視出来ないものである。
睡眠時間も減ったしハロウィン後には結局日付が変わってからもあれやこれやで忙しいし、そんな疲れを引きずった結果保管をミスしたのはある意味で当然だったのかもしれない。

「今回はもう市販の奴で済ませて良いかなって思うよ……気楽が一番」
『おっ、おぉぉっ……だ、だったらなっ……いい、っ……』
「……そっちは大丈夫なのか?何かすっごい変な声出してるけど風邪?」
『あっだ、大丈夫だからなっ……す、すごい店、あるんだ……そこに行ってみたら、良い、いぃっ……!?』
「……そっか、じゃあ気を付けてね……」

仮装製作に本気を費やせる時間は存在しないものの、今風邪を引いていたとしても安静にしていれば十分間に合う時期でもあるだろう。
言葉を言い終わるよりも先にぶつん、と着信が切れてしまった様子に首を傾げながらも、今の所は相手を信じるしかない。と言うかどこにどんな良い店があるのか知らされてない。
こっちからかけ直してみようかとも思ったが、それよりぼろ布になってしまったぼろ布風の衣装を片付けてしまう方が先だと判断する。
余力を十分残した上で今日からハロウィンまでに用立てる衣装を、処分する事で空いたスペースの中にしまい込む為に。

名残惜しさや袖を通さずに捨てるのは勿体無いといった声を聴く度に強引に変色した衣服に鼻先を突っ込んでの酸っぱい匂いで掻き消しつつ裁断。
どうにか使える繊維は無いかと鋏を取り出すよりも先に確固たる意志を持って丸めた衣装をゴミ袋に収めていると、スマホからの通知。今度はショートメッセージ。

『さっきは切っちゃって悪いこれ本当に良い店』
『なんでも揃う』『満足する』『良いだろ?』『だからいけ』

複数回鳴り響いて何事かと思ってみたが、きっちりと周辺地図まで載せてくれた上に場所からしても自宅から十分通える距離となれば行かない要素が無い。
改造する必要が無い既製品があったら嬉しいし、或いは改造出来るだけの小物があったらもっと嬉しい。この時期になったらさぞかしハロウィン仕様に店内もデコレーションされている事だろう。
どんな店であるのか楽しみであるのと、改造しなければならない出来だったらどうやっても強行軍になる。
恐怖混じりの恐怖すらも、何処となく楽しく感じていた。


「『ありがと、行ってみる』だって。これでお前のお友達も仲間入りだね」
「やっ……あいつ、駄目…っひぃっぐぅぅっ!?」

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あきゅろす。
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