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短篇
黄昏-2
気が付いてしまった時点で何をするのかを考える。
大人しく帰る。折角遠出までしたんだし絶対に嫌だ。
コアタイムが訪れるまで時間を潰してから改めて訪れる。周りには何も無いし炎天下の中で出歩くには難しい。時間も何も分からないし、何処からやって来るのかも分からない。
今までベンチに座ったままスマホを弄り続けてみたが、このままだと着実に危ない温度に達しているという事だってもう本能的に分かるのだ。
ずっと座っていた尻だってやたらと熱を帯びているベンチに、どれだけ拭っても拭っても消えない大粒の汗。

「ええい……こんな状態で出来るかぁっっ」

叫び声を上げようと、既に空っぽになっているペットボトルを振り上げようとも何の言葉も返っては来ない。
サンダルにだってじわりと汗が滲む、このままでは楽しむとかどうこうよりも先に干上がってしまう。

延々とペットボトルを買っては過ごす様な真似だって出来やしないもの。大人しく何処か他所へ赴くなりして時間を潰す事にした。しようと思った。

「あー……お客様、申し訳ありませんが水着を着用している方はちょっとこう、アレなので」
「隠れてるから良いって訳じゃないんですけれどもね、ほら、心象が悪いと言いますか」
「別に人間に対しての区別ではないですよ。でも普通だったら水着以外の服を持ってないとか無いじゃないですか」
「人間なら尚更ですよ……せめてちゃんとズボンは穿いてってくださいよ、その下何も履いてないでしょうし」

「…………うぉえぅ」

この場が紛れも無く全裸の獣人が集まるビーチであるのだと間接的に理解した。汗だくになって向かった先に人間であっても受け入れてくれる店は見当たらない。
やたらと警戒された後で顔が恥ずかしいやら申し訳ないやら、仕方なさを受け入れるしかないぐらいには人間も結構ろくでもない行為と場所に足を踏み入れてるんじゃないかと思ってしまうぐらいには。
変な声だって溢れながら、来た時以上の汗を足下に垂れ流して結局ベンチに戻るしかなくなった。
と言うか、こんな汗だくの状態で公共機関を使いたくない。自転車でも徒歩でも使いたくない。こんな日和の真昼間から出歩く事すら問題しか無かったのだろう。

「ぎゃあっちぁ」

人間の尻の痕が残るベンチに座り直そうとして、延々と焼かれていた天板に触れた途端に人間の身体は少し跳ぶ。
結局涼しい場所で時間を潰せないし、そもそも汗まみれになってしまっているし、こんなに暑いのに日陰らしい場所すらも辺りには存在しないしでもう何か、もう。
自販機二本目の購入は山の美味しい水だか。口に含むより先に頭から被ってから豪快に煽る。身震いする程の涼しさを一瞬感じてから、何もする気が一瞬起きなくなって途方に暮れる。

「…………」

汗だくの姿を押し切って今の内に帰ったならば夕暮れ時までには戻れるに違いない。
後は夜までにシャワーを浴びてやけ食いして気晴らしに抜いてもう一日を終えてしまったらそれで良いのだって割り切れる。今ならば、まだ。
思ったよりも手早く空っぽになってしまったペットボトルをゴミ箱にぶち込んでから、本当にどうするべきなのか。どれだけ悩んでも答えを示してくれるような者も何も居ないまま、雲は流れて時間は過ぎる。

「……あれ、もう居る?うわっ……何だお前」「びちゃびちゃでそんな顔してるって何?両親がお風呂にでも沈んじゃった?」
「!!!」

背後から聞こえて来た声に、その顔立ちや種族よりも先に股間を見てしまったのは人間の良くない性分であり。
まだ砂浜に足を踏み入れてすらいないのに、噂と情報通りにまるでそれが当然といったばかりに。
牛人も竜人も、剥き出しで丸出しで履いてはいなかった。

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あきゅろす。
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