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短篇
黄昏-1
既に毛皮や鱗を纏っているから服を纏う必要も無いのではないかといった奇抜な思想を持つ裸の獣人が集まるとされる海水浴場。
だからといって衣服を纏って訪れても構わない上に人間だって入ってOK、他愛も無い話からお持ち帰りされるというのも何ら珍しくないのだから堂々と入り込め…

「……いない!?」「…………」
「……いなぁい!」「…………」

照り付ける太陽に雲が所々に見える絶好の青空、波の音が聞こえる中で確かにビーチであり、ちっぽけな建物が二つ程置かれているばかり。
離れた位置には自販機とベンチにコインロッカーまで用意されているのだから確かに位置的には間違いない筈で。建物はどう見ても海の家であり、スマホで位置を確かめてみても確かに間違いはないのに。
水着にシャツと言ういで立ちの人間がそんな砂浜にサンダルの足跡を付けながら悲痛な叫びを放っていても、何も返って来ないまま叫び声が海に消えていく程には誰も居ない。居ないのだった。

変な意味合いで湧き上がって来た汗を腕で拭いながらやっと落ち着き、とりあえず建物の方へと赴いてみる。
片方はどうやら屋台であるらしい。もう片方は何かしらのレンタルなのか単なる休憩所であるのかは分からないが、両方の建物には「CLOSED」の看板が掲げられている。
営業時間も何も書き記されていないタイプで中では人の気配も完全に無い。
海水浴場が使われる目的もあってか周囲に人の気配は無く、歩き通してやっとやって来た頃合いである。人工物が本当に自販機しか見当たらない様な隔離された空間。

「どういう事!?いや本当にどういう事なんだよぉぉぉぉっ……!!」

そんな悲痛な叫び声をどれだけ放とうが、目当てである筈の裸の獣人だの何だのは姿形も見せやしなかったのであった。


「……ふぅぅ」

とりあえず自販機の隣に置かれたゴミ箱には半分程空っぽの缶やら何やらが詰まっているのを見て安心する。
ゴミ箱の中身で安心するのも随分とかけ離れた感覚であると思いながら、何故人が居ないのかは本当に分からない。
幸いにもスマホは用意しているのだから暇潰しには何にも問題は無い。下調べには何も間違いは無かった筈だったが。

「……あっづ」

問題発生。辺りに日陰らしい日陰は屋台の庇すらも実に心許ない小ささであり、自販機で炭酸水を飲みながらのネットサーフィンには向かないという事を身を持って味わう。
確かにこの場所で間違いないし、そっち系の動画や自撮り画像の背景等を見比べてみても問題無く見えているのに。
例えば水着が無い代わりに紙皿で股間を隠していたり、写真越しの蜥蜴人に至ってはただ尻尾の先端を身体の前へ回す事で平然とギリギリセーフ判定を受け付けている。
身体に光るリングを身に着けていたりしても基本的には裸で全裸で丸出しで剥き出しの光景が出来上がっている筈であったのに。

果てはいやらしいサイトに流れている、実際の睦み事の動画に関して言っても。

「……あっっっっ!!」

そこで人間は、わざわざこの海水浴場に訪れる為に数駅先からやって来た青年は気が付いた。
画像も動画も自撮りも、裸の獣人達が集まっている時の景色はどれもこれもが日が落ち切った夜か落ちかけている夕暮れ時である事に。
時刻的には六時間程先になる事を自覚して、こんな日和であるのに熱くない汗が人間の肌を流れていった。

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