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短篇
スムーズ-5
「……は、早く……身体、洗って……湯、を……」
「あ、分かりました……」

思わず見惚れてしまっている間にも狼人の身体が小刻みに、がたがたと震え上がり始めた様子を見て合わせて手桶に掬った湯を浴びせかけていく。
脱ぎ去った衣服を丸めて集めて、やっと浴室の床に身体を丸めて座り込んでいる姿は岩の様に頑健でありながら、雪の様な儚さを同時に備えている様に見えている。

「それじゃあ洗っていきますカラね……変に痒い所とかあったんだったら言って下さいね本当に……」

お湯を浴びせれば血管と筋肉の脈動が生々しく蠢く姿が、毛の備わっていない人間や竜人蜥蜴人といった有隣種以上に鮮明に見えるもの。
両手の指の股に備わっている皮膜に両耳の先端、そんな一際薄い部位は薄桃色に色付いて、人間が見ている間にも色合いが褪せていく様子さえも見えている。
体温の変化がそれだけ顕著に見えるのだから狼人がどれだけ寒がりなのかも分かるものだろう。何度か湯を浴びせてから、石鹸を丹念に擦り付けたスポンジを隆起した背筋へと這わせ始める。

「ぐぅ……ぐぅぅ……」
「擦りながら泡立てる事で摩擦熱と泡が寒気を遮断してくれたら良いって思っていますから……思っているんですけどね……ああ、もう……」

実際に触れてみれば、ほんの僅かにスポンジを擦り付けるだけでもこれ以上無い程に滑らかに滑る様な感触がする。
思った以上にスポンジの泡が溢れて来ないのはそれだけ狼人の身体が汚れていたのか、摩擦すら立たずに泡が持ち上がる感触が無いのか。
当然ながら体毛が無い以上は身体のラインと分厚さとが完全に合致しているという事であり、寒さに身体を丸めていようとも分厚さも密度も全て違っているのが肌で分かる。
無骨な肉体に反して、力を入れて擦ったならば擦り切れてしまいそうな滑らかさがあった。

「それで、あの……気持ちいいんですよね?痛いとかひりひりしているとかじゃあないんですよね……」
「あ、あ……ちゃんと感じているから、な……続けて、くれ……」
「じゃあこのまま続けちゃいますよね……ええ、続けて……いくと……」

何度かスポンジに石鹸を擦り付けながら泡立てていくと、くすぐったさに合わせて背筋の歪みがうねるのが分かっているだけではない。
泡立てて擦って行く内に淡い色合いを備えていた地肌まで薄桃色へと変化していくのが分かり、縮こまっていた狼人の緊張さえも徐々に和らいでいる様子が理解出来ていた。

「っふっ……」「……続けて良いですか?」「っは、う、ああ……ああ、そのまま……っふくひっ」

脇腹にも一切の毛が生えていないが、柔らかな肉が備わっていない腕まで引き締まっている様子が分かる。
規則的な凹凸にスポンジを擦り付けて行くとびくびくと身体が震えるのが見えて、どうやらくすぐったさを感じているらしい。
背中全体にたっぷりと泡を纏わせた後は、身体の正面を洗う事になるのだろう。
そこまでの面倒は見切れないかもしれないし、デリケートな部分は自分で洗って下さいとも言って狼人にスポンジを渡してしまえば良いのは分かっている。
分かっているが。

「正面もこのまま洗っちゃったほうが良いですかね……色々触って欲しくない部分とかあるじゃないですか」
「……いや、大丈夫、だ……このまま洗っても良い……」
「……は、い」

振り向きながら見えた裸体に、引っ張られる様にして人間は再度スポンジを手に取っていた。

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