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短篇
スムーズ-3
「……普通に、話してくれるのか?俺が処刑人だって、知っているのに」
「話さないと損だって感じないんですか?自分から処刑人だって自称する人がいるのに」
「…………」

思ったよりも静かな雰囲気を保っている相手の隣へと寄り添いはしない。
そんなに寒いとは感じていないのに、燃え盛る暖炉の真ん前のすぐ側、だなんて暑い場所に腰を据えたくは無かったから。
同じく冒険者の類であり、基本は魔法や道具を用いて依頼をこなしている事。以前に組んでいた相手をちょっと燃やしてしまった事から一人で依頼をこなしている事。
黙って聞いてくれる事への感謝。そこまで人間の方から話した後で、あっと驚いた様な表情をその顔に浮かべた。

「そういえばまだ貴方が犬人なのか狼人なのか……それ以外なのかも全部聞いてませんでした。どっちでしたか」
「……狼、だ……狼だと、聞いているのだが……」「自分でも定かじゃないんですね。犬と狼の違いと言えば見た目や毛並みが関係してるってのも知ってますよ」
「……うむ」

間近で見るからこそその両手はおろか、フードの隙間から僅かに覗いている顔立ちすらも毛の一本も生えていないという異質な様子が良く分かる。
やたらと寒がりであるのもそれが理由であるのだろうと一人思いながら、他愛も無い話をもう少しだけ続けておきたかったのに。
既に寒がりであるのは知っている。フードもローブも全て厚手なものであり、今現在相手が履いている靴にしても毛皮がくっ付いている程防寒機能に優れたものだ。
カップの中身へ息を吹いて冷やす光景は度々見るが、それも必要最低限。まだまだ真っ白い湯気が立ち上っているぐらい熱い中身を大して冷ましもせずに飲んでいるのだが。
暖炉の熱気も完全に遮断されている訳でも無い。

だからこそ人間には良く分かってしまっている。
あの熊人や他の獣人だったら、より鮮明に分かってしまっているだろうが。

「……最初に会った時から気になってるんですけれども、貴方の匂い……体臭って言うんでしょうか……正直に言ってしまいますと」
「……ぬぐ……?」
「香水と香草を使っている様ですけどね、全然抜けきってませんよ……お風呂っていつ入りました?」

ぴくり、と真正面から指摘された狼人の動きが止まった。
処刑人と称していて、依頼の中でも悪人の討伐から何まで、文字通り命を刈り取る事でこれまでの悪行を清算させる存在であったけれども。
漂って来るのは血と脂の匂いだけではない。べったりと鼻孔の中までへばりついて来る様な香ばしい匂いが、暖炉の熱に醸されて一層色濃く立ち上っている。

「……月前、ぐらいに」
「はっきり聞こえはしませんでしたが、単位が月である以上は早急にやってしまわないといけないのは分かりますよ。洗いましょう」
「…………?」
「今から行きましょう、お風呂。ここの宿には浴槽だって用意されてるんですから、入らないと損ですよ。カップの中身を全部空けたら行きましょう、行きましょう」
「……どうし、て……そこまで?」

まだカップを持ったままの狼人に対して、分厚いローブの布地を引きながら眉間にしわを寄せている人間を前にして。
本当に入りたくない様に尻尾を垂れ下げながら、純粋な疑問の調子で問い掛けている。

「貴方への気遣いって言うか僕の方の問題なんですよ、一度気にしたら止まらない性分なんです」
「……やだ」
「大の大人が何言ってるんですか、ほら行きますよほら」

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