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短篇
スムース-2
獣人が多種多様に存在する世界であるのは分かっているけれども、そんな光景を見るというのは人間からしても初めてである。
古傷や火傷の後で毛並みの一部が剥げている様な者は職業柄割と目にする事は多いが、目の前の相手は、犬人なのか狼人なのかも分からない姿を備えていて、ごく自然な調子で両手をフードの中へとしまい込んでしまっていた。
と、そんな具合で気にはなったけれどもこの場で熊人を屠るかどうかを決める点に関しては特に何も関係が無かったので、興味を持ちながらも一旦は気にしない事にした。

「ですから一度止めて下さい。まだ信用ならないのでしたら念書でも書かせるべきなんでしょう。『証言に嘘を交えたら両手指を残さず千切り取ります』なんて文面どうでしょう」
「…………」「……成る程」「えっ!?」

思った以上に物騒な事を告げられて呆気に取られた様に、犬人なのか狼人なのかもしれない相手が暫く無言を保った末。
肯定した反応を見てその場にへばったまま動かない熊人が心底絶望した様な表情を浮かべている。どちらにしても悪い事をし続けていたのだから清算はしなければならない。

「分かった、今回はそうする……それと、その火打石……もしも余っているんだったら、くれないか」
「擦り減っていたから買ったんですよ……ストック含めて買いましたから、どうしても欲しいのならそこの方から買ってみたらどうですか」
「えっっ!?」

思ったよりも低く無骨な声色ながら、割と込み入ってしまった状況の中で熊人が商人として扱う最後の客も目の前の相手になってしまいそうな状態。
ついでに人間が買おうとしていた道具の類も割引されたので、素直に得したと思いながら壁が破られた事に周りから話でもあったのか衛兵がやっと駆け付けて来る。
槍や棒を携えて、今日も元気に市民の皆の治安を守る為に駆り出されているのは分かっているが。扉と壁の穴から訪れた衛兵達はフードを目深に被ったその姿を前にして、その動きがひどく強張ったのが見えた。
思ったよりも深くまで踏み込んでいた気がしていたのに、人間は殆ど気にされやしなかった。

「お疲れ様なんですけれども、ちょっと聞いてみても良いですかね?」
「……どうしました?」
「彼の種族って何なんですか?」「……それだけ?」
「ついでに何で衛兵達からも恐れられているのかも……時間があったら教えて欲しいなって気分です」「……本人に聞け」

肝心の本人も衛兵へと連れられて行き、恐らくは熊人と同じく衛兵に証言をする予定であるのだろう。
火打石自体は手に入ったので欲しかったものは手に入れた。また出会う事があったならば、と思いながら、一旦その場を後にする。


再会は思ったよりも早いものだった。特に寒くはない筈であるのに、明るく焚かれた暖炉の前に座り込んでいたのがあのフードとローブとを纏ったあの獣人の姿だったのである。
黙って火を眺めながら佇んでいる様子は座り込んでいても、猫背の姿勢であったとしても大柄に、見た目と合わさって実に物騒に見えるもの。
両手でカップを握り締めている両手にはやはり体毛の一本も存在していない様であり、指先に生やされた爪がどんな具合に飛び出しているのかさえも鮮明に見える。
人間と同じ様に、両手の甲に備えた血管さえも生え揃って浮き上がっていた。

「貴方の種族って犬なんですか、それとも狼なんですか?いや違いますね……この前はどうもありがとうございました」
「……そっちからか」「ついでに何をやっているのかも気になっちゃってます。僕が同じ様な事やった時は半日以上掛かったのに」
「俺が……賞金稼ぎ……とは、呼ばれないからなんだろう……処刑人と、言われているからな……」

他人事の様に呟きながら、カップの中身の湯気の立ち上る液体を舐める様に飲んだ。

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あきゅろす。
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