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短篇
チョ-3
頭の上で立ち上がっている耳と兎人自身の大きさから、外にもバレてしまうのではないかといった不安が残っている。
かと言って人間に対して威圧する様に覆い被さって来るその姿に、股間にぴっちり貼り付いている褌だったチョコレートの香りはどこまでも軽やかなもの。

「あ、あっの、ぼ、ぼぼ僕って何をどうすれば良いんですかっ」「何って食えよぉ!お前の生み出したものだろうっ!」
「その言葉誤解っ……」「お前っ……食べ物前にしてそんな事言うんじゃねえっ」

既に会話の中で噛み合っていないのが混ざっているが、食べ物を大事にする気持ちだけはひしひしと感じ取れている。
男子トイレの中で二人いる時点で色々と思う事はあるし既に誤解が流布されているのかもしれないけれども、こうして実害が出てしまった以上は人間の責任として受け止めなければならない。
とりあえずチョコレートをどうにかすれば良い。股間からチョコレートを引き剥がせばいいのだといった思いの下に、褌の紐にあたる部分である筈の股間の両脇に手を伸ばそうとして、

「ぬぁぁっ」「げっお前っ……これ以上汚れを増やす気かお前っ……!」

細心の注意を払って人間の手に触れたのは、チョコレートが砕ける感触ではなくとろりとした滑らかな塊が両指と兎人の毛並みに擦り付けられる様な感触。
既に兎人自身の体温によってチョコレートは蕩けてしまっており、だからこそ匂いと感触で兎人にバレ、そして今に至る。ちょっと考えれば当たり前の話ではないか。

「思ったよりもべたついてやがるっ……もうこうなったらアレだぜお前……口で取れ」
「……あっそ、そうだっ……い、一旦外に出て外気温で冷やしたらまた固まるんじゃっ……」「俺に変態になれって言うのかよ、これ以上の!」

人間の造り出した装置の影響を抜きにして考えれば、目の前にいるのは褌を模したチョコレートを履いているといる不機嫌な兎人の姿。声を荒げるのも無理も無い。
同じ立場であったら多分人間も無事では居られないと思うが、だからといってここまで激しく食べ物を粗末にする事に関して言ってくれるだろうか。
多分違うと思うと思いながら、ぐっと頭を抑え付けるままに膝立ちになり、目の前にはチョコレートを模した膨らみがあった。

「いいかっ、お前……紐だった所はもう溶けてるから砕けはしねえが……万が一にもデカい欠片を落としたんだったら……そのまま食って貰うぞ」
「は、はひっ……あ、あの、ハンカチ持ってるんですけど……」「だったら包めるだけ包めっ」

思ったよりも話が分かるのか分からないのか。こうなったのは自分のせいだから、あまり深くは考えない。
人間の予想通りに前袋のもっとも厚みがある部分にはまだ固まっており、装置で軽く叩いていくとどうにか砕く事が出来てほっとした。広げたハンカチで破片を捉え、可能な限り包む。
念の為にティッシュを上から被せて、角を括って簡易な袋に。後は体温で溶かしてしまわない様にトイレットペーパーホルダーの上にでも置いておけば良いのだと一旦落ち着こうとして、

「さあて、これでお前が……ちゃんと食うんだぞ……なあ、これ以上はもう食うしかねえんだからな、お前がそうしたって言ったんだからなぁ……」
「ひぃぃぃ……は、は、はっひ、はい……ぃ……」

軽く腰が動くのと合わせて、人間の目の前でぶるん、と大きく揺れる塊がある。甘いチョコレートの香りに混ざって、漂って来るのは淡く香って来る雄の香り。
褌であるのだから中にあるのは当然ながら男の股間であり、流れに合わせるままに砕いてしまった事で萎えていたとしても立派な竿と膨らむ玉、その大半を包んでいるチョコレートと対面する。
ちょっと視線を向ければ引き締まった腹の腹筋が僅かに見え、真上を上げれば相も変わらず怒気を孕んだ兎人の顔。逃げられないし人が来る気配もない。
仮に来たとしても装置についての説明が出来るかどうか人間には自信が無い。

「んぅっぅ……っ」「ぬっぉ……そうだ、きっちり舐めろっ……」

こんな形で他人からチョコレートを貰えるなんて本当に思っていなかった。悲しい程に思う人間の舌の上には、塩気の含まれた甘いチョコレートの味がぱっと広がるのだった。


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