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短篇
チョ-2
「この世の中に!僕に対して投げ掛けられる愛情も奇跡もありはしないぃぃっ……ずっと信頼していた、科学の力に裏切られた……」

どれだけ不純な目的が発端であったとしてもチョコレートを褌に置換させる為に精一杯全身全霊をかけて向き合った科学。
辺りのカップルがはしゃいだり獣人達がチョコレートを齧り付いたりといった見るからに甘くも甘酸っぱさを宿した光景がそこら中に広がっている。
今から装置を改修してまともに動ける様にする事は可能だろうが、恐らくは日付が変わる程の時間が掛かる。
当日でもないのに要らぬ迷惑を掛ける訳にはいかない。実際はこの日でも人間が行なっている事は限りなくアウトであるのであったが。

「うぎゃあぁぁあ」「ちくしょおぉぉぉぅ……!」

カップルに紛れて野太い絶叫が聞こえて来た気もしないでもないが、全ての計画が失敗したのだと理解した以上はもう自室の片隅で丸まって泣きながら時間が過ぎるのを待つしかない。
明日以降に待ち構えている半額チョコレートで舌と心と精神とメンタルとハートの寂しさを癒しながらどうにか今年も過ごそう。そんな思いでとぼとぼと歩いていると、手首をがっちりと掴まれる。
ふんわり漂って来る甘い匂いは紛れもなく茶色くて塊のあれの風味がする。何かの当てつけなのか、と思っていると身体が思いっきり持ち上げられていく。
太く無骨で、毛皮に覆われてはいるけれども肉球の弾力が存在しない独特の感触で。

「……お」「えっ…えっ、あの、えっ」
「おぉぉぉ前かぁぁぁぁっっ!」「えーっっ!?」

種族を把握するよりも先に、所謂お姫様抱っこの状態で人間の身体はバレンタインの夜に堂々と広場の中央から連れ去られていく。
その声が怒りを孕んでいるかも分かりはしなかったが、身体を相手の拘束から逃れるよりも、貴重な装置を落としてしまわない様に務めるのが精一杯であった。

「あのな、俺だってな、こういう時期にお前みたいなヤツがまあこう、隅っこで騒ぐのがいるってのは分かるんだよ」「……はい」
「別に人様に迷惑掛けないって言うんだったら構わないんだけどよお……じゃあどうして俺の着てた褌がこうなるんだよっっ」

種族的な特徴よりも平均的な身長だと言い張っている人間よりも大柄で引き締まった体躯に、頭に備わっている長い耳は感情を表している様にぴんと立っている姿。
恐らくは全身に真っ白い毛並みを備えた兎人であったが、その下半身の服はズボンを脱ぎ去り、丸っこい形状をした尻尾も勇ましく張り出した太腿も全て露わにしている。
公園のトイレという何があってもおかしくない様な場所に、一人用の個室トイレでの中に強引に二人詰め込まれた有り様で。扉側にそんな兎人がいる為に、人間は封じ込められてしまっていた。

「なんでチョコレートが褌になるんじゃなくて、俺の履いてた褌がチョコレートになるんだぁ!」「それは僕の…僕のミスで本当にごめんなさい、っ!!」

深々と頭を下げるしかないが、だからといってどうにもならない。寧ろ頭を下げた事でこの上なくべったりと貼り付いて甘い香りを漂わせ、一部はばりばりと固まっているチョコレートと近寄っていく。
股間を覆っていた前袋と紐を模した褌の形状をしていた。何か心当たりがあるかと言えば、間違いなく人間の造っていた装置の設計ミス以外思い浮かぶ内容は何も存在しなかったものだ。
いきなり食べていたチョコレートが褌になるのと同じ程に、身に着けていた褌がチョコレートになった圧倒的な姿。当然ながら兎人は怒っているし、人間は謝る事しか出来やしない。

「ごめんなさい、あの、ズボンとかのクリーニングも全部やりますから……」「そんなん当然だろうがぁ…問題はチョコレートだろ……この俺の褌がこんなにべっとり貼り付いてるんだからよぉ……」
「っひ」

頭を掴まれながら、股間を差し出される。本当に誤解してしまうかもしれない中で、甘ったるい風味がトイレであっても鼻先に漂って来て。

「食い物を粗末には出来ねえからなあ……責任取ってお前が全部食いやがれ」
「えっ、えーっ……!?」

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あきゅろす。
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