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短篇
チョ-1
「出来た!秋口からの研究が遂に実を結んでやったっ……周辺のチョコレート全てを褌に置換する装置を!」

時として馬鹿らしい執念は奇跡をもたらす。眼鏡をかけた一人の人間が全力で叫んだ研究室、その片手には光線銃にも似た奇妙な装置が握られている。
日時は二月の半ば頃、一段と桃の形を引っ繰り返した様な奇妙な形のモニュメントがそこら中に飾られているし人名とも知れない変な英字も綴られている。
果たして何を祀り上げているのだろうか、それとも変な儀式の類だろうか?まるで意味が分からないと頭の中で必死に言い聞かせ続けた果てに、産み出されたのがそれらであった。

「っひひひ……これで僕の行動範囲内に存在しているチョコレートというチョコレートを褌に変えてやる……甘酸っぱい青春を送ろうとしてる奴等に体毛入りの褌を食わせてやるんだ……!」

結局当日を迎えても身内からも一人たりともチョコレートを貰う事が出来なかった事を妬んでいたりなんかは一切合切存在しなかったけれども、という事にしたかったが。
出来てしまったならば仕方ないし、この装置の完成の為に心血を注いだのもまた事実。
そして研究室の中には既に何かとラッピングされている人間が自腹を切ったチョコレートも用意してはいたものの、思った以上に時間を食ってあと数時間でこの日が終わるのもまた事実であった。

「実験なんてしてらんないねっ!まだ間に合うんだ、それまでに可能な限りの迷惑を製菓会社に掛けてやるっ!!」

白衣を脱ぎ去って上着を着直してから、装置を片手に勢いよく部屋の中から出かける準備を整える。良い感じの夜景にほどよい寒さ。
諸々を台無しにするには良い日だ。あと数時間しか存在しないけれど。寒さもあってか赤らむ鼻先に、目元に走ろうとしていた何かしらの煌めきに関して人間は無視をする事に。
人間にとって可能な限りの良い日に仕立て上げてみせる。まるで二ヵ月前のあの日を思い起こさせる様なカップルの面々、それら全てを本気で台無しにするつもりで出向いている。
ちょうど良くデートスポットになっている広場まで辿り着いてから、装置を上空に向かって威勢よく掲げる。

「よし、よし、よしよしよぉぉっし!起動する、やってやるぞやるぞっっ……!」

こんな時に限って一個も貰えていなかったりしているモテない者達の全ての恨みを背負ったりはしない。そんな事したらまるで人間が彼等と同類になってしまうから。
元より怨みつらみや怒りや復讐心といった負の気持ちはなるべく抱いていない。まるで人間が十全たる復讐の為に行うのではなくあくまで自分の技術力を証明させる為に。
といった事にしたいという気持ちは本気の本気。決して目頭から何かが流れるといった訳じゃないのだ。
ついでにあまり声を荒げたのならば詰襟を着た人に呼びかけられたりしてしまうかもしれないので、テンションとは真逆に声色はなるべく静かに。

「……せいやあっっ!!」

入り混じった気分を全て振り払う様に、装置のスイッチを勢いよく押す。先端が光を帯びていきながら、粒子が勢いよく放たれていく。
発する際に弱い光を放つだけで基本的には音も匂いも無い。散布される光と合わせてチョコレートは褌になるのだ。甘ったるく柔らかなあんな塊がばりっと引き締まった男物の服になっていくのだ。

「…………」

ほら、広場にだって紙袋を持っているカップルだって珍しくない。後ろ手に組んでいるフリして何かを隠していたりだとか。
そんな甘ったるさを認めない。断じて認めるものかと思って。
特に何も起きやしない事実を認めるまでに数分、装置の開発に失敗したかもしれないという事実に更に数分落ち込むのであった。

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あきゅろす。
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