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短篇
三の1
「どういう事なのか、説明からお願いして良いか?」

この世界においては特に珍しくも何ともないが、奇特な目で見られる事も完全に廃れる訳ではない様な、異種族間で、雄同士での付き合いを経てはや数ヵ月。
好物も知っているし、何処を撫でればさながら猫の様に喉を鳴らして喜んでくれる事も知っている。何気ない旅行にボディタッチ、お互いの裸を見せて、キスをした回数ももう数えきれない程。
されども少しばかりその体格差やら犬人特有の亀頭球を持ち得ている竿がどれだけ人間の体に負担を及ぼすかは分かっていたが為に肉体的な交わりはなんとなく控えられていた。今日までは。

友達として仲良くなってから既に一年以上が経過し、付き合い始めて何ヶ月、といった記念日という訳ではないが、そろそろ頃合いでもあるだろうと話を切り出し。
ベッドの大きさと頑丈さから相手の部屋でやってみようと決めてみてから、整えられたベッドに花まで飾られているという寝室の雰囲気から掃除まで頑張りが伺えるのだろうな、と。
風呂に一片の体毛も落ちていない程の気合の入りっぷりと、精の付く料理を食べた事もあってか既に人間側の気持ちも高ぶって、半勃ちのまま風呂から何故か用意されたローブを纏って。

「本当にそういう気分だったんだよね、本当に……なのに、これは一体どういう事なんだ?」
「ああ……説明しよう……納得するかどうかは本当に分からないけど……」

真っ黒い毛並みに包まれて、鋭い紅色の眼光といった誤解されがちな凶悪な面持ち。実際は可愛い所もあるし、笑うと愉快に見えるのは人間だけかもしれないが。
体格にしても寄り添えば人間の頭が全力でボリュームに溢れた胸元の柔らかな毛並みに埋まり込むぐらいの差がある。お陰で身体も軽々持ち上げられたりするが、筋肉も毛並みも好みの感触。
獣人である事を含んでもがっちりと全身に纏った筋肉も憧れにも似た好意を抱くには十分で、そんな犬人の愛嬌を理解して尚の事久しいものだったが故に、今の状況が本当に信じ難い。

今現在は彼の家の中、寝室であるのに居心地が悪そうに床に正座する身体を縮こまらせ、それでも頭は人間の胸元程度の高さはあるだろうか。
そんな調子で口を開く犬獣人の姿の隣には、同じく真っ黒毛並みに包まれた紅色の瞳をした犬獣人の姿があった。
おまけに隣で全く同じ姿勢で座り込んでいる犬獣人の隣には、同じく紅色の瞳をした犬獣人が、自分の家の寝室であるにも関わらず正座してしょぼくれた調子で耳を寝せていた。
他の二人の犬獣人と同じ様に。

「他に好きな子が出来たとかなら歓迎したかったし、距離を置きたいって言うなら…悲しむけど受け入れられたかもしれない。だが……三人だぞ?二人じゃなくて三人」
「……それは」「実はな」「……さっき説明するって」
「遮っちゃって悪いけれどもそりゃあこうもなるよ……なんで君が、君達が……三人になってるんだ?」
「「「……ちょっと言えなくて申し訳ない!」」」

全員が寸分の狂いも無く叫びながら深々と土下座していく姿を見て、何かを言うよりも先に三人分の声量に思わず耳を塞ぐ。
既に身体も清めて全身の体毛も乾かし終えた直後であると分かる流れる背中側の毛並みも三人分となれば絨毯の様に人間の視界一面に広がっていて、全員の尻尾は綺麗に前面に巻いていた。

「「「こう言っちゃ何だが……ずっとお前と俺達三人で交代しながら付き合ってたんだよっっ!」」」
「……えぇ?」

大声で三人同時となれば耳を抑えようとも言葉と意味は叩き付けられて来る。
何にしても人間を困惑させるには、十分過ぎる様な力の籠った説明であった。

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