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短篇
3
緩やかに執事が淹れた紅茶を飲みながら休憩と言う名のアフタヌーンティーを過ごす。程良く使った頭の中に甘味の溶けた良い香りのするお茶が流し込まれて行った。ああ、良い気分だ。
たとえ僕の隣に立っている彼が上半身裸で僕の腕ぐらいの太さがあるアームバーを鼻歌交じりに曲げていたとしてもこの気分は良い気分に違いないのだ、そりゃあ気になるけどさ。

「……アフタヌーンティーが終わりましたら、魔法の稽古になります。あまり紅茶を飲まない方が宜しいかと」
「あ、うん……」

通りで昨日よりも味が濃かった訳だ。お陰でこれ一杯で満足だ。本当に細かなところまで気が利いている。ありがたいったらありゃしない。服装以外は。
それにしても魔法の稽古とは。昔は母さんのごり押しにより武道の稽古だったが、元から身体のひ弱で脆くて虚弱体質な僕には合わなかったみたいで。単に青痣や筋肉痛をいたずらに作るだけの地獄だった。
でも彼が来てから稽古は武道から魔法に代わった。言うには「坊っちゃまのような身体付きでは此方の方が合っているので」との事だ。勿論全く反論はしないし出来ない。ちくしょう。
でも僕には確かな魔法の素質があるらしい。こんな身体で素質が無かったら僕が僕自身を絶対に嫌っていた。今では毎日毎日の稽古がまあ楽しいと言えるのだろう。確かに進歩を感じるし。


「では、いよいよ実践して使用してみますか…」
「うん」
「何時もの様に私にぶつけてください。手加減は不要です…」

どうでも良いけど筋トレ用の器具を持ってないと死ぬのか尋ねたい。いけないいけない、集中しないと。
臍の下辺りに力を込めて、そこから魔力を呼び出す。心臓を通して腕に溜め込み、一気に放つ。詠唱なんか使わない方がいいとこれまた彼からの教えだ。
手のひらから出て来たのは、球体になって飛ばされた水。僕の魔力が混ざって随分とねばねばしている。迎撃より足止めの効率の良さを重視しての事。どうせ僕が真っ向勝負で勝てるわけないから。

「ふむ、良く出来ましたね。前よりも粘っこさが上がってます…ふんっ」

褒められたのはいいよ。でも人の渾身の魔法をそんな簡単に引き剥がせるなんてね。逆に自信がほんのちょっとだけなくなった。

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あきゅろす。
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