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短篇
霊-10
人間の部屋の中が幾分か手狭に見えているのは、人間以外の獣人達、部屋の中ですれ違い、トイレの中で身体をたっぷりと絡ませた狼人達が普通に佇んでいるから。
立ち上がっては天井に頭をぶつけるかもしれなくて、身を屈めなければ各所に身体をぶつけるしかないので身体を折り畳むか寝そべって居なければ身体を伸ばすのも難しい。

「俺達以外にも仲いい奴が居るだなんてなあ」
「それは……居るだろう。第一たった何日かの仲だろう、俺達」
「まあ、少ないけれど居る事は居るから……オンラインゲーム上がりの友達だけど」

何とも微妙なぎこちない表情を浮かべながら、真っ白い毛並みが電灯の光を反射している獣人達の姿を見下ろす。
手招きされるままに獅子人の身体に寄ってみたら突然にむぎゅっと抱き締められ、ごろごろと重たい低温で喉を鳴らしている振動に何とも言えない感覚が溢れている。

「んで、こうしてまた来ちまった訳なんだが、俺達はどうなった?」「どうなったって……」
「毛並みも変わっているのは流石に言いたい事が出て来ているぞ……お前が何なのか、詳しく話して貰おうか」

あれだけ燦然と小さな光も煌びやかに反射していた獅子人の金色の毛並みも、狼人の銀色の毛並みも今となっては見る影も無く、そこには真っ白い体毛で鬣も全ての毛並みも覆い尽くされている。
光を反射するのではなく柔らかに透き通る様な印象で全体を淡く包み込む様に見せている姿は奇妙なまでに神秘的であり、瞳の色も同じ色合いに変質し、そして肉体は屈強なまま。
夜中であるのに異様に調子は良く、分厚く閉じられたカーテンの隙間越しに溢れる月明りを浴びる程にその力は高まっていく様であった。どちらにしても奇妙この上ない。

「……扉も窓も一回も開いたり閉じたりした覚えが無いんだけど、どうして貴方達がまたこの部屋の中にいるのかが気になるんだ、いや、気になるんですけど」

ゲーム機をスタンバイ状態に戻し、テレビ画面の反射越しに神妙な顔をした狼人を、平然と寝そべったまま人間相手にじゃれついている獅子人に対して問い掛けに問い掛けを返す。
招き入れた覚えは何一つとして無いのに、何故か気が付けば部屋の一面を占領していたし、相変わらずズボン一枚の姿に股間に浮かぶ陰影からパンツの類は穿いて居なさそう。
その上で絡み付いて来る腕の重たさと体温と生温い吐息からするに幻覚や亡霊の類ではない様に思えるのに、何故か部屋の中に迫っている相手達が正直に言えば恐怖を感じていた。

あんな事やそんな事があって、多分人間相手に無理くり危害を加える事は無くなったのに。

「……質問に質問を返したらキリが無くなるがな……まあ、俺達は」

狼人が観念した様に口を開いた途端に、携帯の着信音が鳴り響き始める。適当な場所に置いたので獅子人を振り解きながら画面を覗けば見知らぬ番号が表示されている。
非通知設定ではない。だったら本当に何であるのかと考えた挙句、いざという時は切れば良いのだと通話ボタンを押して耳に宛がう事にした。

「……もしもし?」
『俺だよ、俺』「……あれ、電話番号って教えてたっけ…」

聞こえて来たのは、ゲーム画面とヘッドホン越しに聞こえて来る声と似通った声。
どころではなく、あの声そのものであり、電話番号を教えたかもしれない相手が、何故かこの場で電話を掛けて来ていたのだと。

『さっきゲームしてくれて嬉しかったよ…本当にどうにかなったのかなって思ってて』
「だから今の所は大丈夫なんだって……心配かけて本当ごめんな、な?」
『中断したよな?今インしてないよな?だから何かあったんだなって、何かあらなければならないって心配で心配で』

今度は部屋の外から呼び鈴が鳴る。応対に向かうより前に二度目、三度目、連打。

『だから来たんだ、人の気配がお前だけじゃないな、そいつらがお前に悪さしたんじゃないかって、だから助けに、そうだよ助けに来たんだよ?』
「……えーと」

かたかたん、と音を立ててテーブルから人形が落ちた。あの時警察に預けたものと似通った人形。
呼び鈴の音は絶えず響き、獅子人達はじっとこちらから目を離してくれない。人間は少し考えながら、長く緩やかな溜息を吐く。

「何から話して、何から聞こうか?」

そして、扉が外から開錠された。

【終】

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