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短篇
霊-9
「最近、特に昨日の夜あたりに変な事とかありませんでしたか?」「何かこの人形、気が付いたら家にあったんですけど何でしょうかね?」
「心当たりがないんだったら預かっておきますよ。見た感じ結構ボロボロなので落とし物、というのは分からないですし……」
「だったら一旦預けておいて、預かり期間が過ぎたらもう捨てちゃってていいですから」「はい……本当に何も無かったんですよね?」

日中であっても薄暗い部屋の中に、訪れて来たのは制服を纏った警察官二人組。いつ通報されたのかも分からないが、物を盗られた訳でもない、部屋が荒らされても居ない。
施錠したかどうかは定かではないし誰にどうやって通報されていたのかも分からないものだが、部屋の中が無事ならばあまり気になる者も無い、という事にしておく。
逆に増えている様に心当たりの無い形と見た目の人形が棚の上にぽつんと置かれていたのが見えて、変な違和感を感じたのでそのまま預けた。

「うーわぁ、何だこりゃ」

警察が去って行った後でスマホを確認してみれば、不在着信が二百通程同じ番号から入っているしメッセージ機能もほぼパンク寸前の有り様であった。
どちらも同じ名前と小刻みなメッセージ、「今どこ」「何かあったら呼べ」といった此方の身を案じた呼びかけの内容が詰まっているのが序盤の事。
「本当に大丈夫なんだろうな」「いざという時には何でもやってやる」「無視してるんじゃないだろうな」「だとしたら俺が許さない」
徐々に平静が失われていく様子がメッセージ内容の変化から目に見えて理解出来るものであり、とりあえず連絡をしておいた方が良いのではないかと思って、最初に行ったのはゲームを起動する事だった。

「……これで知り合ったんだから、何かあるんだったら絶対こっちにも来てる筈」『今まで何してたんだ?』
「…………」『喋れるのは分かってる、何があった?』
「いや、思ったより早かったのに驚いただけだよ」

オンラインに繋げた途端に、慣れ親しんだ声が聞こえて来る。家までは教えてなかったのに、随分と勘が鋭いのか、それとも。

「まあ良いか……身体とかももう大丈夫だからそんなに気にしなくても良いよ、心配してくれてありがとう」
『いや、声が聞けたし家に戻れたのも嬉しいって思ってよ、本当に良かった……良かったよぉぉ……』

思ったよりも心配されていた事に申し訳なさを感じながらとりあえず言葉を語る。まだコントローラーを握る必要さえも無いスタンバイ前、と言った有り様なのに。
ヘッドホンの中に聞こえて来る泣き声を嗜めつつ、復帰も兼ねたワンプレイ。いつの間にか家に戻って来ていたことを察知されていたなとも感じ取ったが、あまり気にしないでも良いか、と感じた。

『また居なくなったりしないよな!』「大丈夫だって、前みたいな事にはならないから」
『絶対絶対の絶対だからな』「絶対絶対の絶対の絶対同じ事は起きないよ、今度からは本当に気を付けたいし、お祓いにも折角だから行ってみるよ」

普段以上に力の入った反応に、もう少しだけ掛かると感じ取りながら、人間の夜は今日も今日とて過ぎていく。
前よりも寂しくないのを感じて、何か物騒だったりおっかない物が湧き上がって来るのではないか、といった疑念と不安もかなり解消されている。

「……思ったよりやり込んでるんだな?」「コントローラー買おうぜ、どうせこれから長い付き合いになるんだ」
「…………あの」「どうした?」「洗濯が終わり次第履くつもりだ」
「……これがゲームだって分かるぐらいの人だったんです……純粋な疑問っ、わひゃぁっっ……」

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あきゅろす。
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