[通常モード] [URL送信]

短篇
霊-3
意図的に見せていたのだとしか思えない様な扉の開き具合に、一度、ほんのちらりとでも視線を向けてしまったならばそのまま目に止めざるを得ない様な光景が、扉の向こう側に広がってしまっていた。
一見何にもないがらんとした空間の中、部屋の電灯すらも付けられていない薄暗さを持っても窓越しに月明かりが明るく輝き、湯気すら立ち昇っているかと思える様な熱と雄の色香がむわり、と立ち昇って来る。

「がっあ、あぉぉっぅぅぅっ!?」「はっ、ぐはぁぁっ!」
「…………!」

薄暗い月明かりにもきらきらと輝いて反射している様な銀色の毛並みを帯びた狼人が、牙を剥いて叫びながら股下からそそり立つ自分自身の竿から真っ白を通り越した粘っこい精液を吐き出しているのが見える。
動きに合わせて大胆に揺れ動く竿は既に亀頭球も丸く膨れ上がって別の生き物めいて股間で存在感を示して、ばちばちと音を立てて玉袋が揺れて張り出した狼人自身の太腿に何度もぶつかっていた。
そんな雄を犯しているのもまた雄であり、人影であるのも当たり前であるかの様に金色の毛並みを、実際はもっと明るい色か、茶色を見間違えたのかもしれないが、今の人間には輝いて見える。
汗に濡れて光沢を帯びた金色の肉体が狼人に背後から組み付いているのが見え、赤毛の鬣が堂々と見えているのが目に入り。

「……っはは、見られてちまってるなあ」
「っっ」「っあ、おぉぅっ、だ、だから、閉めとけ、ってぇぇっ!?!」

それが狼人と同じく丸裸の獅子人であると理解した時には、光を反射して細まった盾に裂けた瞳孔が、何とも楽しそうに光彩の絞りを人間に向けながら、獰猛に笑い掛けられていた事が気が付いた。
肉がぶつかる音は確かに獅子人と狼人達との間で繰り広げられ卑猥にぶつかる衝撃までも緩んだ空気の中に響かせながら、戸惑う狼人を肉の律動によって黙らせている。
こんな時期なのに冷房も何も入っていない姿に、足元に一瞬でも見えてしまったどろどろとした光沢がそれだけ白濁を塗れ、散らかし、吐き出した痕跡なのだと気が付いてしまって。
情けなくも甘ったるさを残した声色を帯びた狼人の喘ぎ声が放ったのを切っ掛けにして、先程までの飲み物を飲みたい欲求を振り払って駆け出す。
まだ喘ぎ声も聞こえて来るし、離れていても肉の音は聞こえて来る。

「っは、うぁっ……」

どんな感情を伴って自分の口元からそんな音が溢れるのかすぐには特定出来ないまま、大急ぎで開錠して、入り込んだ途端に施錠した。
靴を両足から弾き飛ばしたのも気にせず部屋の中央まで早足で迫り、そして、そして。

「…………っく」

見られてしまった事と、気付かれてしまった事を噛み締めている間に、最も重大かつ大変な問題が既に発生してしまっているとも理解してしまう。
外開きの扉から、どちらの方向から来て、どっちの方向へと戻って行ったのか、分かる人には分かるではないか。何部屋もある訳ではないアパートの中、引っ越しする面々が多かったにしても特定は容易ではないか。
デジタル時計しか壁に掛かっていないのにカチカチと秒針の音が異様な大きさで聞こえて来ている様に感じてしまう。違う、人間自身の鼓動の音が酷い事になっている。

「…………」

気分によっては、あの狼人も獅子人もこの部屋にまで訪ねて来てもおかしくないのだ。そこまで近い出来事、同じアパートの同じ階層での出来事。
何処までもやるせない気分と無性に追い詰められてしまっている様な気分とが同時に溢れていて、遠巻きに聞こえる何かの音が途切れても人間の頭の中は少しも眠る気は無くなった。
朝を迎えても神経は張り詰めたまま、目を閉じて眠ろうとしてもはっきりと毛並みの輝きと白濁のコントラストが焼き付いてしまっており。

「ああ、あの部屋だけはまだ空いてるよ?」

成す術無くなって昼過ぎに大家へ問い掛けて見た結果、少し間を置いてから背筋は寒気を増すのだった。

[*前へ][次へ#]

3/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!