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短篇
霊-1
街外れの誰も使われていない様なトイレの中から、まるで泣き叫ぶ様な男の声が頻繁に聞こえて来る。
一切の人気が無い筈なのに中からはどうしようも無い程の人の気配と足音が聞こえて来る。近付けば扉全体がガタガタと揺れ動く様な振動も響いていくのだと、

「ハッテン場じゃないの?」

インターネッツで調べてみた結果、やはりそういう場として使われてるという情報が掲示板なり何なりで理解して、納得する。
泣き叫ぶ様な男、人の気配、近付けば分かる程の振動と。全てがそういう物事として話が進んでいるとなればその場にあるのはオカルトでも何でも無い。
ただの性欲と肉欲が入り乱れた場所から僅かな音と恐怖が漏れ出しているばかりだ。オンラインゲームに時間を費やしながら、チャットで語るのはそんな話。

『でももしかしたらがあるかもしれないじゃん。試しに行って確かめて来てよ』「馬鹿言うなよ」
『お前の家近いだろ、安かったんだし』「それはなあ……」

鳴り響くゲーム音楽と声が伝わるヘッドホン越しにも、辺りから生活音も聞こえて来ない程の寂れたワンルーム。
駅から近いとは言えないし、三階建てなのに二階建てよりも薄っぺらな印象がする部屋の中。調べて見た結果トイレは歩いても言える距離でもあるが、それが何になるというのか。
心霊スポットと思ったらハッテン場で自分も巻き込まれてドハマりしてしまいました、といった何処かの小説で見た気がする様な事が有って堪るかといった思いである。
少なくとも人間からしたら色々とごめんだった。家も近いのだしバレたら非常に困る。

『じゃあトイレの写真撮って来たならなんかやるよ!』「一番怖いのは人間って結論ごめんだからな」
『友達を怖がってちゃ世話ねえぜ……じゃあアレやるよアレ、プリカ』「……五桁の?」
『えー、そうだな……トイレの中の写真撮るんなら』「約束だぞ、マジで」

されども物欲と金銭欲という最も普遍的な化け物というのは誰の頭の中にも存在するものであり。
気が付けばコントローラ―に加えられていた力もぐっと強まる程に高まる欲望の下、友達との間で話は着実に進んで行ってしまうのだった。
一戦を終えて時刻は夜。アパート入り口に置かれた自動販売機の光がやたらと眩しさを感じる様になった頃。ゲームコントローラ―を握り締めていた人間は、念の為にスマホ以外の物を持たずに部屋から出て行く準備を進めた。


「……あー、あのな。今良いか」『ああ、大丈夫だよ。俺お前の性的嗜好とか気にしないしまだまだ一緒にゲームやっときたい年頃だから。でも今から付き合うのはごめん』
「違う……今その、トイレの近くまで来てたんだけどな……」『誰もいないんだったら俺は唯のトイレの写真に万払う事になるんだな』
「誰もいないっていうか、解体されてる……」

わざわざテレビ電話機能によって送られた画面には、薄暗い街灯が照らし出しているげんなりした顔の人間が、そして近場に重機の置かれた解体途中の件のトイレが映し出されている。
外観は確かに見覚えがあるが見覚えのある警戒色のバリケードが置かれてこれ以上は近付けない。こんな街外れで人寂しい中のトイレ等、誰も使わないという結論に達したのだろう。多分。

『……これで俺も金払わないで済むしお前も襲われないで済んだな』「こんな時間からわざわざ外出したんだぞ、半分ぐらいいいじゃん……」

気紛れな談笑をしていた二日後だった。人間の住んでいるアパートの中に、「お隣さん」がやって来たのは。

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