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短篇
1
明日こそ言おう、そうしようと誓ったのは昨日の布団の中での話である。どうせやる時にはその時の決断でどうするかを決めるのに。
いざ直接言い出すとなると少しばかり難しい。嘘である。かなり難しいったらありゃしない。単に僕が言わなかったら良いのだろうか。もしかしたら気になっているのは僕だけじゃないのだろうか?

いやいや、そんな話など有り得ないのだろう。空間を制御する魔法は相当難しい。全世界から掻き集めたとしても百人居るかどうか。その内の一人がウチに居るとしたらますます怪しい。

「坊っちゃん、私の顔よりも黒板を見て頂けると助かるのですが」
「あ、うん……」
「そんなに見られると私、顔に色々と書かなければなりますからね」
「あ、ははは……」

うん、笑えない。だけど笑わなかったら露骨にがっかりしちゃうんだもん。それ以上にさ、あのさ、えーと…言っちゃって良いのかな。うん、言うべきだ。

「あのっ…?」
「どうかしましたか?」
「…………!」

ええい、何でわざわざ顔を寄せて来るんだ。余計言い辛くなっちゃうじゃないか。

「そ、そのダンベル重そうですね!」
「ええ、重さは軽く三桁超えてますからね」
「あははははは……」

ちくしょう、間違えた。二度目に指摘するのは最初よりもずーっと難しい。ただでさえ今僕は一般的に言うとしたならば生徒であっち側は教師役という間柄であるんだから。
ああ、確かに教師役がダンベル片手に話すのはおかしいに違いない。現代史の授業には全く必要ない。でも問題はもっと別の所にあるのだ。明日こそ言おうそうしようと願っても行動には移せなくて。
今日も布団の中、ベッドの上で明日こそは指摘しようと願うんだろうな。今日も実行に移すのは無理そうだ。

「……以上で今日はおしまいです、坊っちゃま。お茶は如何ですか?」
「…ああ、頼むよ」
「かしこまりました」

何で上半身裸に蝶ネクタイだけなのかを。
……実際、尋ねるのは難しいんだろうなぁ。

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あきゅろす。
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