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短篇
情-6
季節外れの発情期が開始されてから初めての朝を迎える。時間的にはまだ一日二十四時間も経っていないというのが驚きである。発情期用の対策がまだ不十分だったのだと、身を持って理解した。
あの狼人の下に留まって誰を選ぶのか犯された身で待たされるのかもしれない。蝙蝠人の巣穴と称してどこぞのマンションの高層階に控えられていたかもしれない。どっちにしても自分が犯されるのは変わらなかったけれど。

「ひっ……ひっぐ、ひぅっ……!」

どうにか身を捩らせながら、尻と肉棒に鈍痛と疼きを覚える身体をどうにか蝙蝠人の中から引っ張り出し、手すりを乗り越えて脱出成功。
こんな時用なのか屋上の扉は施錠されておらず、非常用の階段を通って地上に出る事が出来た。防火扉越しにもくぐもった音と咆哮、人の気配がそこら中に漂っている。
ぺたぺたと足音を響かせながらどうにか地上に到着。途中で上の方から扉と雄臭が聞こえて来たので足音も早まった。洗い場に辿り着いて一応中から精液をひり出し、タオルの類は無いので両足を湯に漬ける程度に留める。

「はぁぁ、ふうぅ……っくしゅ、っ……」

緊急発情期到来という事もあってかまだ疎らに仕事に出ているスーツ姿の人間や、恐らくは発情抑制剤を服用している獣人達が丸裸の自分をげんなりとした瞳で見つめている。
その傍らで引き裂かれたスーツの破片に寝かせられて、丸裸の獣人に覆い被さられてくぐもった声を上げる人間の姿。発情期とさほど変わらない光景に、こんな形で対応するしかないのだろう。
近場の古着の提供に頼るか。今回は大人しく家に戻れる手段を探そうか。裸で外を出歩いている解放感にもう少しだけ浸って居ようという怪しい気持ちを振り払っていると、肩を優しく叩かれる感触。

やってしまった、と思わず身構えるのを他所に尻肉がぶるっと震えるくらいには疼いていて、肉棒が勝手に立ち上がる。
今更隠すのも何の意味はないので裸でぶらつかせている、そんな無防備な上に精液の匂いが取り切れていない人間に対して質感から人間のそれではない掌が触れる理由はほぼ一つ。

「ひ、ひぃいっっ」「大丈夫だ、すぐに取って喰おうなんて気はない……君を助けに来たんだ、だから落ち着いて……」
「えっ、ふぁっ!?は、はぁぃぅっ!?」

ぱさりと自分の身体を覆う感触に上着を掛けられたのだと分かり、此処にこんな優しさが残ってしまっていたのかと結構本気で取り乱してしまっていた。
振り向いて見るとそこには犀人がいた。サイではない。サイ人だからって人間という訳でもなく、そこには鼻先に毛並みの固まった角を生やした犀人がにこやかな笑顔を自分に向けていた。
スーツの上着を自分に掛けてくれたのかシャツを纏っており、腹回りがぴっちりと強調されているが腕から胸元にかけても強烈な程に張り出しているのが見えるありふれた形状。
発情抑制剤を服用してる上にそこまで優しくしてくれるなんて、と本当に目頭が熱くなりそうな世界だ。電話をして午前に半休するから、といった話を付けた上で彼の自宅に自分を送ろうとしているらしい。

「その裸の格好じゃ個人情報の紹介も難しいからな……仕事が終わるまで待ってくれるか?」「……はっ、は、はい、はいっ……!」
「ああよかった……犀という事もあって色々誤解されやすいからねえ……とにかく、今から君を私の家に送るからね……」

言葉に疑問を感じながらも、久し振りに温かみを感じた。
別の温かみや熱や匂いや重たさは好き放題に感じたものであったが。発情期だから騙されても関係ないと、思っているのが一番よくない事だとはもう分かっていた。

「ふぬおぉぉっ!たまらん、堪らないぞぉっ!」「ぎゃひぁぁぁ!?」

実際に騙されるのは、もっと良くない事だったのに。

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