[携帯モード] [URL送信]

短篇
情-3
公園の中や駐車場の一角、単なる通路の傍らにも獣人襲撃後用の洗い場は何ら珍しくはなくなった。一般的にはコインランドリーの隣に併設されている事があるのは常識だ。
あの狼人は瘤が萎えた後でまた唸りを上げながら次の獲物を探しに行った。逃げる他人を追い回すよりは新たな発散相手を探す。そこまで来れば獣人の習性ではなく個人の性格の問題だろう。
戻って来ないのを意識して、逃げた。他の転がってる皆は一応生きていたし、全てを察して自分の後も追ってくれなかった。

「いやあ、大変でしたねえ……」「明日も仕事なのに……」
「この辺は何とか、外れてる様でしたからねえ……」

獣の精液臭さを纏った人間達が、常にぬるま湯が流れる様になっている洗い場で身を濯ぐ発情期ならば手慣れた光景。常備されている石鹸の減りからするにまだ余裕がある状態。
服と纏めて身体を洗って、後はランドリーで乾燥すれば残り香も可能な限り抑えられる為、裸或いは適当な物で股間を隠しながらの談笑と情報交換が常であった。
これが発情期の終盤となれば石鹸も無い、ランドリーを使う余裕も無い、屋根のある狭くて暖かい所だからと獣人が縄張りにしていたりで休める間すら存在しない。
明日どうなろうと分からないね、とネガティブに笑いながらも場合によってはこの場で得た情報が地獄が煉獄に変わるぐらいの効果を及ぼすかもしれないので、誰もが朗らかながら必死である。

「中央の通りはなるべく使わない方が良い。豚人と猪人がこぞって集まっている。ああなったら洗い場を中心に広がってる……ああ、職場も近いのに」
「でも道路の方には獅子人や虎人とかバラバラになって行動してるから車でもきっついんだよなあ……抱かれ始めたんなら三日はザラだから、何とか逃げて来たんだよなあ……」
「……あっちの方で狼人に襲われたばかりです……新しい人を求めてる間に逃げられたんですけど……」

嘘偽りの無い言葉を言った途端に周りの緊張と視線がぐっと高まるのを感じる。狼人他犬科の獣人は嗅覚に著しく優れている常識の通り。
いざ執着を受けてしまったなら全身を隈なく洗ったとしてもどうしようもないという流れがあり、捕まるついでに巻き添えを食らうというのもまあ珍しくなかったりするものだから。

「あっちの方に狼人、か……はあ、家への近道なのに……」
「だったら急ぎてえのに、このランドリー途中で停止できないタイプかよ……」

獣人は全裸でも発情期だから許されるが、人間が全裸だったら普通に捕まる。毛皮の無い獣人でもセーフなのに、とまだ法改正は進んでいない。
申し訳なく思いながら、水気を払った身体に石鹸を擦り付け続けてどうにか匂いを誤魔化そうとする定番の動きを取る。こんな調子だから発情期終盤にはどこもかしこも石鹸が無くなるのだ。
ぶつん、と音を立てて自分の服を入れていたランドリーが切れる。高温で短時間。開いた途端に燃える様な暑さを感じて、きっと生地にはよくないが背に腹は代えられない。
どうせまた汚されるから。

「……じゃあ、もう行きますね、皆さんお大事」「ぐらぁぁぁあああっっ!!」
「……はい、お大事に」

さっきの咆哮は馬鹿にならない度量だった。そんな相手も発情期に陥っているものならもう本当にどうなってしまうだろうか。
石鹸を洗い場に戻したら、もう半分程も減っている。今回は時間を外れたが、やっぱり残りそうにはないものだった。

「こんな夜道に出歩いているなんて危ないですねえぇぇっ!」「うわぁーっ!」

そして五歩ぐらい歩いてから、自分の身体は鳥人に攫われた。

[*前へ][次へ#]

3/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!