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短篇
情け-1
「た、大変だぁっ!最近の温暖な気候に合わせて発情期が来ているぞーっ!」
「何だとっ!まだあと何週間も残っていた筈なのにっ!うわあぁぁぁっ!」

獣人の発情期において、パートナーが見付からない者達は一際荒れる。しかしながら獣人は人間と比べて男女差は圧倒的に男、雄の方が爆発的に多く、パートナーが見付かるのは稀少。
併せて性欲の強さとが混ざり合った結果雄同士での交合によって性欲を間に合わせるのが大半である。それと合わせて、獣人よりも人間の方が小柄で痩身に見えるから、と。
実際の所は獣人と人間との体格差の都合上、人間がどれだけ鍛えようとも獣人の筋肉の発達には適わないというのが常識であったのが違いないのだけれど。

結果として何が起こるのかと言えば、発情期には正気を失った獣人が人間に犯される事が日常的に有り得るのだからどうにかして頑張って欲しい。
頑張って犯されたくない人間は対応して欲しいし、犯したくない獣人はなるべく努力して抑えていて欲しい。といった危機意識を持たせるのが精一杯だった。
猫科の獣人が泳ぐのを不得手とする者が多く、有隣の種族が冷気を苦手とする様に。獣人の本能には決して抗えないというのは誰でも分かっているので、国にしてもそれが精一杯なのだろう。

「はっ、はぁっ、はぁ、はぁ……!」

そんな事を言われていたとしても。盛りの付いた獣人に狙われるのと自分自身の欲求を抑えられるかどうかというのは雲泥の差、月とスッポン、どう考えても差がおかしい気がしてならない。
基本的には大柄で筋肉質で肥満体に見えても肉の内側の筋肉量が人間の数倍という事さえ珍しくないのが獣人の常であり、追われたならば逃げられないし、隠れるにしても匂いで探られ、地下なら安全と思いきや岩盤をぶち抜いて来たと言う都市伝説まで残っている。
どこだかに野太い声が響いている叫び声から必死で逃げに逃げきり、やっとどこかの廃ビルの地下へと逃げ込む事が出来た。辺りに獣の匂いは無し。荒っぽい声や気配も無し。

「…………はぁ……」

やっと自分が真っ直ぐ立っていられないくらいに疲弊している事に気が付いて、壁に背を預けてもずるずると下がって尻もちを着く。
必死だった。遠吠えの音は嫌でも響くし、被食者の本能とさえ呼べる様に背筋に寒気が登ってもう背中も全身もびしょ濡れだった。もう動けない、動きたくない。
なのにぐるぐると音が聞こえる。ぐるぐるであって欲しかったのにぐるるる、とそれは喉から響いて来る様な唸り声であったのはもう分かっている。正面扉から堂々と入って来たのは、異常な前傾姿勢の狼人だと気が付いても。

「良い匂いがすると思ったらやっぱりいい奴が居るんだなぁ……用意だってやってんだろ、じゃあ遠慮も要らねえっ」
「はっひ、ひぃぃぃっ?!」

もう動けないと思っていたぐらいに心臓の鼓動が激しかったのに動いたのは本能の凄さであると思う。薄暗い中で影の中に潜り込んでいた程に真っ黒く見えて、四つん這いだったのに自分と視線が合う体高だったから。
転ばないのも不思議だったし、喉の奥が乾ききってこれ以上走ったら血とか色々出るなって分かっているぐらいの全力、知っていた程の全開。
やっと思い出したのは、背後からがっちりと腕が回された時だった。犬科の獣人は逃げたら追って来るので、発情妨害スプレー等の嗅覚に訴えかける方法が一番であった事を。

「もう準備だって済んでるんだなっ、おらぁっ!「いやぁ!」

万が一引き裂かれても身に纏える様にとスナップボタン式の脱げやすい服と伸縮性に長けたインナー。
それでも爪が引っ掛けられて何処かが裂かれて、露わにされた自分自身の尻孔には既に潤滑剤が仕込まれている。
迂闊に叩き込まれて引き裂かれたり破裂したりするよりはこっちの方がマシなのだろうといった防衛策の一種。おまけに中に纏った柑橘系の香りは沈静化させる効能があるとされるが、

「いいケツしてるっ……もう、堪んねえなぁぁっ!」

毎年の事ながらいつも思う。剥かれた上で萎える獣人なんて存在しないんじゃないか、と。

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