[携帯モード] [URL送信]

短篇
欲会-9
人の気も知らないで。何でそんな言葉がぱっと浮かんだのかって、と言う事も分からないくらいにじれったくてもどかしい気分になっていたからである。
そこら中開発され尽くしてしまったという状態であるのに何とも言えない気分のまま。自分の身体の奥にまで散々に刻み込まれた快感に、これから先は自分一人での処理では満足出来ない気分であるとまで何となく分かってしまうではないかと。
もっと砕けた言い方をすれば、自慰をして精液を吐き出した所で多分満足は出来なくなったんだろうなと確信に近い予感ばかりが強く強く根付いてしまっているのだ。
いや、本当にどうしてくれるんだ。

「ああ、もう、これだから本当……本当に、っもうぅっ……!」

独り言さえ大きくなる程に困惑しながらごろごろと身体をマットレスの上で転がして、やがて落ちてどん、と衝撃を響かせた。まずい、下の階の人に何か誤解されるかもしれない。
昨日の内に恐らくは大所帯の獣人達に朝帰りから送られた事まで含めて、色々と手遅れなのかもしれないけれど。そうなった時用にゆっくり呼吸を落ち着かせている合間に呼び鈴を鳴らす音。
ああ、やっぱり響いてしまったのか。流石に申し訳なさばかりを頭の中に思い浮かべながら扉を開く。

「っと、ごめんなさい、ちょっとマットレスから落ちちゃ……」

そこには見覚えのある太さがあった。いや、服を着ているけれども確かに先日、というか今日の朝まで自分の身体をあんな事やこんな事に遭わせる切っ掛けを作った柔和そうな顔とふっくらな尻尾と腹と四肢とを備えた。
やんわりとした笑顔で目元がきゅっと細まるし毛皮に包まれている獣人だ。獣人と言うのはひょっとしたら見た目の違いが人間には判別し難いとされる以上見た目だけがとてもよく似ている別人であるのかもしれない。

「良いよ……それとも、良いですよ、と言っておいた方が良いですかね?昨日の夜は本当に良い思いをよくよくさせて貰いましたし」
「っあ、貴方って……まさかぁぁっ……!」

どうしてこんな予想を世界は裏切ってくれないんだろうか。もうちょっとバグっていても良いからもう少しだけ自分に都合のいい世界であって欲しかったなと。
思っている間に、申し訳なさそうに身体を縮こまらせながら何かの箱を渡された。これでいやらしい玩具の類であったなら本気でどうにかしたい所だが、良い茶葉のセットだった。
どんな判断何だろう。ちゃんと服を着ている以上はいたって普通だ。普通なんだけど、種族柄なのかズボンの内側は普段からぶっくりとしているものであるらしい。
それにしても中々触った事の無い紙箱の手触りだ。どんな匂いがするんだろう。ずっとこういう事だけ考えてこの日を過ごせないかな。マジで。

「ああ、あのファミレスに居た獣人達、半分以上はこの辺のご近所さんだねえ」
「…………」
「ああいう事やるのはそんなにやらないからね?急に襲い掛かったりとかはな……多分無いと思うから大丈夫だからね、うん、本当」

ああ、自分の人生はもう終わっちまったかもしれない。いやもう終わった。終わったったら終わって新しい始まりが訪れた事なんてもう知った事か。知らなけりゃ良かったと。
良かったのにとか思いながら、勃起が収まらないのが一番終わっていると思った。

「……それで、来月はどうする?」「……行きますよ、もう……」

【終】

[*前へ]

9/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!