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短篇
欲会-2
「何も無いのと合わせてな、俺達みたいな獣人の中には、満月が近付く程に興奮するって奴が結構多いんだわ」

十六夜とか十五夜とか十三夜とか今夜とかあったが、とにかくハロウィン過ぎのクリスマス前、ちょうど何もないぐらいの日と月が綺麗な季節とが合わさってこんな事になっているとの話である。
暖房を効かせた店内の中で、ドリンクバーと頼まれた料理とがテーブル一面に並んで獣人達が好き放題に食べているという状況。店丸々使った事がバレたら全員のクビとかでも済まされない気がする。
とか思ってたけど、あの帽子からするに警備員まで引き込んでいるらしい。そりゃあ駄目だ。相変わらずスマホは没収されているけれど、他の獣人達は普通に自撮りしてるのはちょっと癪だった。

「美味しいかい?いやごめんね驚かせちゃって、こういう場所に君みたいな部外者が来るってのもそうそう無いからさ」
「……まあ、美味しいっちゃ美味しいですけど」

何だかんだでフライドポテトだけ頼んでドリンクバーで取って来たメロンソーダで流し込んでる自分は結構無欲であるのかもしれない。一定のマナーを控えていながらも、基本は無礼講であるらしいこのイベントに。
ビールを瓶で流し込んでいる狼人に、ソファーの上に立って色々ぶらぶらさせている兎人と馬人の姿。あんまり見つめるのも何打かな、と思って視線を逸らしたら蜥蜴人の尻とご対面。
で、肝心の狸人は申し訳なさそうな表情を浮かべながらも全裸で、自分の隣にでっかい股間の袋を乗せていながら大股を開いて言葉と顔付だけは穏やかだった。
これで口調が荒っぽかったり酒を片手に自分の肩に腕を絡ませるくらいの激しさだったら大人しく逃げる事にしていたのに。あれ、そっちの方が良かったんじゃない?

「本当にスマホとか返してくれるんですよね、大丈夫なんですよね」
「どっちの意味でも大丈夫だよ、大人しく今は料理を楽しんでくれたら良い」

どっちの意味とはどっちとどっちの意味なんだ、と哲学染みた問答を頭の中でふと考える。ファミレスは楽しい、フライドポテトは安定のおいしさ。
だけどファミレスでそこまで料理を楽しむというのも何とも言えない気分になりながら、徐々に酔い始めたのか声色だって大きくなる。あの熊人も警備員じゃなかったっけか。

「……これ、いつまで続くんですか?」「朝までには終わるさ。流石にこんな真似を昼間まで続けるなんて危ないからね」
「はあ……すいませんね、こう、混ざっちゃって」「とんでもない、一緒に居てくれてこっちだって嬉しいもの」

またぱっと頬肉を摘まんで引っ張りたくなるような人の好さそうな笑顔と、鎖骨から上腕にかけてびしっと張り巡らされた筋肉の太さのコントラストに火傷かしもやけか起こしてしまいそうになる。
こういうヌード好きの、確かヌーディストがどうとかいう面々は全裸である事以外は紳士的な態度を取る必要があるとか言われてたんだっけ。
だったら他人に迷惑を掛けない様に店をほぼ貸し切りにするのも当然で、朝に新たな客が来るまでにイベントを済ませるのもまた当然であるのかもしれない。

「……だったら、もうちょっと頼んで良いですか?この季節のモンブランケーキって」「ああ、良いともさ」

ならば楽しむのが、正確に言えば普段はちょっと高くて中々手が出せない様なちょっとした贅沢をド深夜に赤の他人と楽しむという禁忌を堪能しようじゃないか。

「ついでにホットドッグとかもどう?」
「あ、良いんですか、貰いま」
「……言ったな?」

そんな狼人は盆の上にパンを乗っけて、ソーセージと言うにはあまりにグロテスクな形をした、竿が挟まれたパンを差し出していた。自分の顔に向かって。
一瞬幻覚かと思ったがどう見ても犬科のナニだ。血管が血走った赤黒く、先端が尖って根元の形状がふっくらとした。

「……え?」

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