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短篇
さもさ-2
犬獣人は動く小さな物体をつい追いかけてしまい、鳥人は安全を感じている最中でも驚いた時に飛び去ってしまう。そして猫人は、ひらひらした物や目の前で動く物に噛み付きたがる。
元の種族の癖が色濃く出てしまうのは獣人の中では時々に起こり得る事であるらしく、猫人もそんな者の一員であると、正式に診察された者であったりした。

「ガムを噛んで紛らわせるのもぐちゃぐちゃになるのが嫌だし、口をずっと閉じてるのも気分が悪くなって……」
「だからといって、また噛んで良いとは一言も言ってないだろう」

頭を擦りながら、お互いの存在を認知し終えた後で再び後ろで纏め結い上げた髪の先を噛まれた人間は以前よりは落ち着いた口調でまた頭を下げている猫人に言葉を返す。
そんな彼用に巨大な猫じゃらし的な物体だって用意しているらしいが、外でわざわざそんなものを持参出来る筈も無い。やむを得ず外出する時に限ってひらひらしたものが目に付く。
普段は我慢出来る、している。と言っても猫人側が自分の舌を血が滲みかけるまでぐっと噛んだりしなければどうにもならないくらいの抑圧であるらしいけれど。

「貴方の髪だとそんな抵抗もどうにもならないくらいに惹かれてしまうんですよ。本当に綺麗でさらさらしている癖に自然に光を反射してくれて」
「綺麗だからと言った理由で噛まれるのはそれで酷く厄介な者だろう」
「それは本当に申し訳有りません、それはそれとしてその手は何でしょうか」

頭を下げ終えた猫人の視線の先には、何かを揉みたそうに、または扱きたそうに小刻みに動いている人間の両手が見えている。場所によってはかなり卑猥なものに見える動きだ。
何をどう求めているのかについては人間の視線の先を見れば明白であった。尚も猫人の尻にくっ付いて、時々に揺れる尻尾を丸い瞳孔がしきりに捉えて動いて居るのが見えたから。
人間がそんな獣染みた習性を手に入れるのかと言えばそんな筈もなく、以前の出来事にしてもただ人間の欲望が心中の我慢を振り切ってしまったが故の暴挙であったりもした。

「……いつの間に」「無意識だったんですか?」

本気での驚きだと猫人が理解してからだろうか、そんな二度の偶然を経てから、猫人と人間はなんとなく連絡先を交換し合い「ぬぎゃあ」、時間が合った時には遊ぶ様な仲になった。「ぐあわ」
年齢的には猫人の方が「ぐああ」人間に比べて年上であったが、趣味やら趣向は似通っている「あああ」。
何よりも、お互いにひらひらとした髪を「ぎゃっ」「にゃぎゅ」または安全策として毛先を伸ばしている尻尾を互いに狙っている関係として、時には涙を流すくらいの事が起きたりも「ぬぐぅ」「ぎゅあっ」「ふぎゅ」「っみぎぃっ」
出会う度に時々、一緒に食事をしている途中に何度か、初めて部屋の中に招かれた時には隙あらば。

といった具合に人間は髪を噛まれた。時には噛まれたままぐっと引っ張られて首から変な音がした事もあったが、最後の加減が施されていたのか骨やらに関しては無事だった。
猫人は尻尾を掴まれて扱かれて、時に指先は尻尾の付け根にまで及んだ。本気で引き千切られてしまうのかもしれないと思える程の熱量を帯びたりもしたが、辛うじて踏みとどまってくれた様に荒れたのは毛並みの流れだけだった。

「……解いても跳ね回らないなんて、凄いって思ってる」「毎日手入れしてるからな……どこかの誰かが噛んで引っ張って来ても、崩れたりしない様に」
「こっちの尻尾よりも手入れが行き届いているかもしれない」「…………」

普通だったら毎度の事ながら悪いとか、申し訳ないとか、そんな謝罪の言葉がお互いから溢れていたのかもしれないけれど、今となっては話は別だ。
粘着ローラーを転がしてみれば猫人の毛がべったべたに貼り付く様になった人間の部屋の中、お互いに身に着けていた服を脱ぎ、人間は結い上げていた髪を解いた無雑作な姿を露わにしている。

「……汚さないのは無理か?」「多分。こっちの尻尾の毛並みを乱さないんだったら、考えるかも」
「言ってくれる」「そっちだって」

大柄な顔が悪戯に笑う。ベッドの上に腰掛けていた人間の髪をたくし上げながら、猫人はそっとベッドの上へと人間を押し倒した。

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