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短篇
やてたご-2
『ちょっと君、手が空いている様ならばそこの棚の上の荷物を取って欲しい』

大学に入りたての獣人の背中に対して、ざっくりと今と変わらぬ調子で話しかけてきたのが人間との出会いである。

『ああ、ありがとう。君の身体に対して興味が無い訳ではないが侮蔑の意味は存在しない』

渋々振り向いてからその通りに棚の上に置かれた段ボール箱を彼が持っていた台車の上に置いて、礼を言われた続きの言葉にどれだけ救われたものであるだろうか。
後ろ姿だけならば、尻尾の房からしてライオンの類に見えるだろうが。真正面を向いてみれば、または袖を捲り上げただけでも相当の違和感がその全身に漂って来ている。

見た目から何となく距離を置かれている上に、猫人種の集まりからも同じ様な調子での慣れ合いを否定されたとなれば獣人にそれらしい居場所は存在しないと思っていたが。
科学者らしいというべきか断定的な態度と合わせて、多少手酷い目に遭ったりもしたが捻じれた歯車同士が噛み合った様な関係を取り持って数年。あまりに突然で、今ではベッドの上。
身を清めて乾かしたばかりの毛並みはふわふわとしているが縞模様も斑模様も全てがごちゃ混ぜになった状態で強調し、同じ様に人間からも浮ついた何かしらの花の香りが漂って来る。
どうしてこうなった等とは今更言えない。日を改めようと言ったとしても必ず人間側が延期を断る日はやって来る、ならば今日にがっつりと行った方が良いとの決断であり。

「ぐぁぁっ、い、痛……っ……ちょっと一旦止めてくれっ、これ以上の太さは無理だ」
「……まだ俺の指一本分ぐらいなんだけどな?これ本当に何とかなるのかよ」「何、なんとかさせる」「お前の身体だろうに」

ベッドの上で寝そべってズボンを下着ごとずらしている人間の尻孔に潤滑剤をたっぷりと塗して、開発用と称した小振りなアナルディルドだけで確かな苦痛と収縮が走り抜けるのが分かる。
用意してくれた潤滑剤の匂いからするに全ての道具も人間の手作りであるのだろう。機械油の様な匂いがして何とも興奮せず、開発も人間の体質の問題かびっくりする程に進まない。ディルドが物理的に進んでくれない。

「筋弛緩剤を使えば余裕で押し込まれる予定だが、下の方も緩くなるから最終手段だ。それにしても全身に力が入らなくなるから、手筈をアドリブでこなす必要がある」
「それだけ強いもん気楽に使う物じゃねえだろ?」「だから暫くは解す事が条件だな……来週までに間に合わせよう」「お願いだからちょっと思いとどまってくれないか?」
「何処に?その言葉は何処に掛かった『思いとどまってくれない』なんだ?」

左右で瞳孔の開きが異なり、口を開かずとも口元からは牙が覗く。鬣は首周りと合わせて頭頂部、両耳の間に太いそれが生やされているもので、何処までもちぐはぐな調子が抜けないが図体だけは巨大な獣人。
最初に出会った通りの言葉をきっと今でも遵守している。見た目は気になるし興味だって抱くが侮蔑ではない。ありふれた食事に二人での遅めの青春だって送る事が出来たのだと自負出来ている。
そんな獣人であるが、見た目の通りに遺伝子自体も細分化しているものだった。端的に言ってしまえば猫科の獣人を相手にしても子供が出来る可能性は限りなく低い物であるのだと診断が下っている。

「……別に、お前の身体じゃなくても、その薬だけ使えば俺だって」「動物実験を行ったのは今の所俺だけだ。結局は幾らかの癖があって、それを全て理解しているのも」
「あと数年待てば出来ない可能性だって狭まる」「学生生活はこの一年で終わるし、それまでに妊娠した証拠を出さなければ評定が終わる」
「……もしかしたら、俺で思い付いたのか?」「ああその通りだ。お前の様な相手を救えるならば、一番身近なお前からだろう?」

尻孔周りに塗られた潤滑剤をティッシュで乱雑に拭き取りつつ、こういう時に限ってあっさりと答え抜くのが素直と取るべきかそれとも。
だが、少なくとも。人間を見ながら不意に溢れる胸の高鳴りは気のせいではないのだと、獣人にははっきりと理解が行く。

「とりあえず小さなものからコツコツと、か……来週にまた来てくれ、その時は幾分かましに」「来ねえよ」
「来てくれよ」「……お前の解す所まで、全部ずっと見たくなったんだからよ」

「……え?」

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