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短篇
やてたご-1
「出来てしまったぞ。この薬を用いれば、男同士であったとしても子供を妊娠する事が問題無く可能になる」
「急にどうしたんだ?」

ふらりと音信不通になったかと思えば、数ヵ月後にまるで昨日は出会わなかったかの様な口ぶりで話し掛けて来るこの人間の立ち振る舞いには慣れ切っているものであったが。
流石に研究所の通路を歩いた末、既に人集りが出来ている食堂の中で挨拶前に話す内容では無いくらいにはデリカシーを持って欲しかった。言っても聞かない融通の効かなさばかりが鮮明だ。

獣人用のLサイズ定食(人間その他小型の獣人のLLLサイズに該当)の食券を二枚分買ってから厨房前のカウンターに出すよりも先に、周囲がざわめく前にがっちりとその襟首を毛だらけの手で掴み上げる。
豹人らしい斑模様と、虎人にも似た縞模様が混在する腕は並みの獣人以上に太いのと合わせて、頭二つ分の巨体と其に相応しい岩の様な筋肉に全身を包んでいるものだった。
白衣を纏いっぱなしの人間の身体など、指一本で持ち上げられてしまう程には。子猫を運ぶが如く持ち上げ、まだ人が来ていない食堂外のベンチに降ろして改めて聞いてみる。

「で、男同士でも妊娠出来る薬だって?」
「ああその通りさ。色々実験で試してみたが、オスだけの金魚は無事に卵を産み落とし、カブトムシだって見事に卵を産んだ」
「せめて脊椎動物で実験してから考えられねえのか?」「だが、摂取させた個体の妊娠率はざっと十割だ。理論通りに出来ているし、大丈夫ではあると思う」

研究所の中でも最も小柄な人間であるとか、小柄である癖に裾の長い白衣を常に纏っている様なろくでもなさまで備わっているが、その知識とひらめきに関しては本物だ。
首周りを覆う鬣をいつもの癖で弄ってしまいながら考える。多分本当であるし、この研究所の中で嘘を聞いた覚えも無い。嘘であって欲しかった出来事だって山程あるけれど。

「それで実験を行いたいんだけど、そっちの協力が必要なんだ……色々と試してみたけれど、着床確率を上げる為に結構な手順を踏む必要が出来てしまったから……」

人工的な子宮を臍から挿入して腸内に繋ぐ様な方法からかけ離れてくれたのは何よりである。ケースの中に収められていたのは異常に長い注射器とボール大の何かしらが数個。
ゴム手袋と潤滑剤まで用意されている辺り、尻孔から突っ込んであんな事やこんな事をする仕様であるのだろう。そのくらいは獣人側にしても分かる。

「まず注射器の中身を尿道を通して精巣に注入しながら、潤滑剤付きのゴム手袋で尻孔の中、結腸以上の奥にこの玉を突っ込む必要が出て来た。その上での性行為を行う事で、詳しい反応は省くが子供が産めるという訳だ」
「これ全部ケツに突っ込むのか?」「その為に表面を起毛させて腸内に取り付く様になっている……が、脊椎動物以上の実験は色々と最初で最後になりそうだからさ……」

ボール自体がソフトボールかそれ以上並みに巨大である上に、表面は何かとざらざらしている造りだった。人間の片手だけでは一個だけを持つのが精一杯の大きさ。
説明に合わせて饒舌さを増し、話が続く程にその両目が爛々と輝き始めた様子を見せ始めている事が何を意味するのかだって獣人には分かり切っている。分からなくていい程の興奮と、止められやしない情熱の塊だ。

「暇があったら協力してくれるか?こっち一人だと跳ね飛ばされたり吹っ飛んだりで困るんだ」
「……で、何を孕ますんだ?」「自分」

即座に言い返された返事の意味を理解するまでに、三拍程の時間を要する。てっきり実験用のラットやウサギを押さえ付ける役割か何かと思ったがいきなり人間で実践をするとは。
口元の髭まで膨れ上がったのが分かる。驚いた事で鬣までも膨らんで驚いているのに周囲を自然と威圧する雰囲気がバリバリに溢れて止まらない。小さく深呼吸を行ってから、再度口を開く。

「誰に孕ませられるんだ?」「君だよ、分からないのかい?」

今度は直ぐに理解出来たが、驚く事になったのは尚更変わらないものだった。

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あきゅろす。
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