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短篇
剥き出し-4
「あ、来てくれたんだ……思ったより怪しいかなって思ってたけど、嬉しいね」
「……まあ……たまたま、暇だったですし……」
「本当に物好きなんだね」「えっ?」

最後に首筋に顔を埋められた時に、首元に挟んでいたメモ用紙に記されていたのは明らかにあやしい雰囲気が漂う喫茶店に見えるものだった。
正確には日中が喫茶店で夜にはバーとして酒を提供しているらしい。出会った日の翌日、まだ休日で余裕はある。あると思っている。どうせ暇であった上に、勉強が捗らないのは昨日と同じだ。
意を決して入ってみれば、言葉の通りにレジの前に立っている店員も客も全員が獣人で、当然の様に全裸であった。と、少し前までの人間だったならばそんな考えで割り切って即座にメニュー表に集中していただろうが。

今はそれぞれの獣人が靴なりサンダルなりを履いているのが見えるし、毛並みの中に紛れてポーチを、携えたハンカチを、或いは左手の例の指に指輪を嵌めている者さえもちゃんと確認出来た。
昨日出会った猫人と犬人がカウンターに並んで座っていて、人間の姿に気が付いた様にひらひらと手を振りながら招かれて、実際に言われたのがそんな言葉であった。

「こうして来てくれた分だけ嬉しいもんだなあ……で、お前さんは脱がないのか?」「やっ……ぱり、そう言う事になるんですか?」
「別に脱がなくても説明は出来るけどね…でも、こっちはちゃんと人間が脱いだって通報はしないよ」「通報……」
「それに、ちょっとでも気になってないなら、わざわざこんな所まで来ないと思うんだけどね……」

まだ日も高い時期であるのに窓には全てブラインドが掛けられている理由も、コインロッカーが喫茶店の中に堂々と備わっている理由も、全てがそういうものだから、と理解が行く。
獣人だったら堂々と全裸で歩けばいいのだから貴重品を預ける以外は特に必要も無い。そもそも軽食をする場所にそこまでの貴重品は財布以外必要は無いだろう。
他に誰一人として使っていない事が分かっている様に、ロッカーは誰も使っていない様だった。と言うか自分以外でこの店の中に居る人間が居なかった。
脱いでいいのかも判断がし辛い状況であったけれども、既に視線を通路に向けてみれば何かを期待する様な表情で猫人と犬人が見ている。股間は勃起していないのでそういう反応ではない、と信じておきたい。

さっさと逃げてしまえば良かった。同じ本を読んでいたとしても、さくさくした胸元に埋まったとしてもそのままにしておけば良かったかもしれないと思っていた。
なのに人間は集中出来ないままで、興奮しても居ないのにどこかで鈍った感覚が余っていて。だから此処まで辿り着いて、こんな調子で裸になるのを。流石に誘導かどうかさえも、分かりはしない。

「……何だよ、この気持ちって……もうっ……」

やがてがたん、と音を立てて、ロッカーの中に硬貨が投入された音を猫人の耳は拾い上げた。



「……うぅ」「思ったよりも悪くない身体だし、何よりも良い匂いすんなぁっ……はは、こんな所じゃなかったら」
「や、っぱり、そういうのが狙いなんじゃないですかっ…」「違うよ、まだそんな気はならない……ちゃんと対策してるよ、誰でもね」

テーブルが無かったならば断わっていたかもしれない。並んで座っている犬人と猫人の目の前で、裸で座る椅子のひんやりとした感触を剥き出しの尻で味わっているという状況。
代わりの様に椅子にもビニールシートが貼られているもので、きっと手入れを楽にしている造りである。どうしても内股になってしまって落ち着かない中で、猫人が差し出したのは何かの芳香剤に見えた。
細い紐で括られている、コイン程の大きさをした木の葉の形を模した物だった。差し出されたのを手に取るだけで、清涼感の漂う匂いが鼻先を擽って来る。

「裸だとどうしても匂いが籠って来ちゃうからね……こういうのを尻尾の付け根とかに提げて、急な発情とかを防いでる」
「獣人だったら全員やってるんだぜ。俺達が正気を保てる立派な発明品だ」
「……あの……前々から……多分、獣人についての話を聞いた時から、ずーっと思ってるんですけど、どうしてそこまで……服を着ないんですか?」

周りの空気が急激に引き締まるのを感じる。目の前の二人だけではなく、この場に居る獣人全員の視線と感心とが、一斉に集約されていた。
思わず玉も縮んだ。

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